2016/11/25

#95. ウィット(知力)とグリット(やり抜く力)を超えて:成功の秘訣を再考する | ハワード・ガードナー | TEDxBeaconStreet




翻訳ウラ話


アメリカで教育を学んだ人なら一度は通るガードナーのMI理論。ガードナー自身が自らの言葉で語る動画はネット上にいくつもある中(参照)、その1つに日本語字幕を付けることができるというのは貴重で光栄な機会でした。この翻訳作業のために資料を探す過程で気づいたのですが、MI理論は日本語の資料だけを見ていると支持が圧倒的多数、疑問の余地なしという印象です。欧米では批判もたくさんあり、教育や脳科学などの分野でさまざまな議論を呼んでいますが、もしその部分が日本の人々に届いていないのだとすると重大な問題だなと思いました。脅すつもりはありませんが、「英語ができると取り込める情報の量が増え、理解の幅が広がる」というのは事実です。

日本語の訳本をはじめ、MI理論関連には定訳のある用語が多いので、検索で複数のソースを確認しながら翻訳を進めました。



英語学習のヒント


理論に馴染みがない人にとっては内容がわかりにくいかもしれません。「自分の英語はまだまだだ…」なんて落ち込んだりしないでくださいね。英語学習に向いているビデオは他にいくらでもあります。

歯ごたえのある学習を望む人は、大学で講義を受けるつもりで、字幕をオフにしてメモをとりながら聞いてみましょう。聞き取りという点では、前半の理論の概要は比較的やさしいですが、後半の新しい活動の説明に入ると難度が上がります。集中力を保ち、なるべく止めたり戻したりしないで要点を書き取りましょう。終わったら自分のメモを元に講演を再構築し、最後に英語字幕や日本語字幕で内容を確認します。


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ウィット(知力)とグリット(やり抜く力)を超えて:成功の秘訣を再考する | ハワード・ガードナー | TEDxBeaconStreet

Japanese translation by Eriko T., reviewed by Emi Kamiya

長い目で見たときに真に成功する為には何が必要なのでしょうか?もしあなたの考える答えが「頭が良いこと」と「努力をすること」なら、この講演を聴いてみてください。

(2016/11/25 字幕公開)

2016/11/10

#38. カルマパ猊下: 心のテクノロジー



翻訳ウラ話


こちらも様々な事情から長い間字幕が未完成になっていたものでした。チベット語を英語に通訳したものに日本語字幕をつけるという珍しい体験ができました。



英語学習のヒント


英語の部分は通訳者が一語一語を訳しながら発しているものですので、速度はゆっくりで間もたっぷり、文としても複雑ではありません。宗教家の言葉ということもあり、語や文の構成もシンプルでわかりやすいでしょう。とはいえ、あくまでも内容を伝えるための英語ですので、あえてこれを英語学習に使うことはないでしょう。通訳の言葉は話し言葉とも書き言葉とも違う特殊なものですが、ひょっとしたら日本の教科書に出てくるような“英語”にはこれと近いところがあるかもしれませんね。

講演者には「His Holiness」という敬称が付いており、「猊下」と訳しています。このような敬称の中で日本人にとって身近なのは「His/Her Majesty」でしょうか。その他にも英語の敬称はいろいろありますので、興味がある人はこちらなどで確認してください。


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カルマパ猊下: 心のテクノロジー

Japanese translation by Mariko Imada, reviewed by Emi Kamiya

カルマパ猊下がどのようにして見出され、チベット仏教で尊敬される人物になったかを話します。猊下はテクノロジーとデザインだけではなく、私たちの心のテクノロジーとデザインにも取り組むよう求めています。通訳はタイラー・デュワーです。

(2014/8/12 字幕公開)

2016/11/09

#94. 義務でする交流なんて要らない | キャロライン・ マグロー | TEDxBirminghamSalon



翻訳ウラ話


コーチングセッションの中で「忙しくて学習時間が取れない」「どこから手を付ければいいかわからない」というようなご相談を紐解いていくと、それぞれの「線引き」や「優先順位」の問題につながってくることがあります。限られた時間やエネルギーを、どこにどれだけ使うかは本人次第なのですが、それに気づくのは簡単ではないのかもしれません。こうした講演が、日常生活のちょっとした習慣を変えていくきっかけになればいいなと思います。



英語学習のヒント


この講演で出てくる「owe」や「miss」は、英語としては基本的な部類で非常によく使われる動詞ですが、日本語に訳そうとすると意味がとりにくいものです。そのためか、日本人学習者が発する英語の中ではあまり見かけません。読む・聞くというreceptiveな場面では「なんとなくわかるけど、よくわからない」、書く・話すというproductiveな場面では「使えない」「使うのに勇気が要る」となっているのかもしれませんね。「owe」「miss」の他に、英語では頻出でも日本人にとって使いにくい動詞としてパッと思いつくのは「deserve」「matter」「afford」などでしょうか。

このような動詞をきちんと理解するには、日本語訳と英語の両面から、できるだけ多くの例文に当たることが大切です。まずは辞書を引くことですが、最初に出てきた意味をチラッと見ただけでわかったつもりになってしまうと、このタイプの語は習得できません。語義、例文を丁寧に読み、その語が持つ“守備範囲”をつかみましょう。次に、ターゲットの語が使われている前後の文脈を探します。ネット検索が便利ですが、ターゲットの語単体で探してもうまく行きませんし、「+sentence」のようなキーワードでは文レベルの例しか見つかりません。そこで、辞書で得た情報から、一緒に使われている可能性の高い語を見繕ってキーワードにします。たとえば「owe」なら「+responsibility」「+relation」「+favor」などと合わせて探す、という具合です。どんな語と組み合わせるとよいか考えることで、言語センスも磨かれていきます。


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義務でする交流なんて要らない | キャロライン・ マグロー | TEDxBirminghamSalon

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Riaki Poništ

この短い講演では、ライターのキャロライン・ マグローが、自身が執筆し、大きな反響を得て広まったブログ記事にまつわる問題を語ります。過度に他人とつながりやすい現代社会で、自らのエネルギーを使い果たすことなく、なおも他者に与える方法について、マグローのアイデアを聞いてみましょう。

(2016/11/8 字幕公開)

2016/11/06

#37. 幸福は心の中に|ゲン・ケルサン・ニエマ|TED×Greenville



翻訳ウラ話


15年ほど前、私は日本からアメリカへ禅を紹介しに来られた老師に教わってはじめて坐禅を知りました。その後、日本帰国中に近所のお寺で何度か体験し、そこで教わったことやいただいたハンドブックを使って、今でも気が向いたときに坐るようにしています。一方、アメリカでは西海岸のビジネス界からMeditation(瞑想)が広まって、東海岸でもすっかり定着しましたが、意外なことにそちらは未体験なのです。というわけで、どんなものか覗くついでに訳してみたのがこの作品です。



英語学習のヒント


これもまた、英語学習にと考えること自体にやや抵抗がありますが、あえて考えるなら、非常にゆっくり、はっきり、わかりやすく話していますので学習に使いやすいと言えるかもしれません。中級程度でも日本語オフ、字幕オフで理解できる内容です。気に入った文があったら、英語字幕を見ながら音声のあとについて言い、映像を止めて滑らかに言えるまで繰り返し言う、というようにしておくと、ふとしたときに口をついて出てくるようになります。発音を改善したい人やスピーキングを伸ばしたい人は、いわゆるシャドウイングのようにつぶやくのではなく、唇の形や舌の位置を意識しながらしっかり声に出すようにしましょう。録音をして、自分で聞いてみるのも効果的です。


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幸福は心の中に|ゲン・ケルサン・ニエマ|TED×Greenville

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Shoko Takaki

仏教の尼僧、ゲン・ケルサン・ニエマは「幸福という贈り物は私たちの心の中にこそある」と言います。自分の幸福を他人や周囲の状況に任せてはいけません。幸福になりたいのなら「幸福を他人に委ねるのは止め」、心の中から湧き上がる平穏な気持ちを育んでいかなければならないのです。

(2014/8/11 字幕公開)

#36. ナオミ・オレスケス: 科学者を信頼すべき理由



翻訳ウラ話


本来は科学の外にいる人向けに、科学が行っていることを解説する目的のレクチャーなのですが、立場上、いつの間にか「なぜ科学をやるのか」という聞き方をしていることに気づきました。研究者はときに自分がやっていることが何の役に立つのか、見失うものです。つい、PhD学生の間でよく知られるこちらの図解を思い出してしまいました。

訳については判断に迷うような部分はありませんでしたが、固有名詞や訳語、定訳の確認に手間がかかりました。これに限らず、分野を越えていつも思うことですが、同じモノや現象を指す用語でも、英語では一般的な語の組み合わせなどで比較的素人の想像が届きやすいのに対し、日本語では日常語と明確に隔てられていて、孤高で有標、使われ方が限定的ですね。たとえば「inductive/deductive」にしても、「帰納/演繹」よりずっと身近です。「専門用語然」としているところに、日本語の専門用語のありがたみがあるんでしょうか。



英語学習のヒント


英語そのものは複雑ではなく、口調など音声的にも学習に向かないわけではありませんが、とにかく専門用語や固有名詞が多い中で話題が次々に移っていくので、英語学習という面ではなにもこれを使わなくてもいいかな、というところです。日本語字幕をオンにして、全体の意味をつかんだうえで、気になる箇所があればそこに戻って、英語字幕やトランスクリプトでチェックする程度に留めておきましょう。スピーチのスタイルとしては、話の展開や例の出し方が上手いので、たとえばガイドや広報のように、なんらかの事柄について広く浅く説明する予定がある人にとっては参考になるかもしれません。


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ナオミ・オレスケス: 科学者を信頼すべき理由

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Misaki Sato

世界の重大な問題の多くは科学者の見解を必要としますが、なぜ私たちは科学者の言うことを信じるべきなのでしょうか。科学史の研究者であるナオミ・オレスケスは、私たちと信じることとの関係を深く考察し、科学研究に対する姿勢にまつわる3つの問題点を導き出します。さらに、私たちが科学を信頼すべき理由として、独自の根拠を示してくれます。

(2014/8/11 字幕公開)

2016/11/05

#93. アビゲイル・マーシュ: 人が利他的になる理由



翻訳ウラ話


個人的に日頃から読んだり話したりしている話題と重なるところが多く、点と点がつながるような感覚があったので翻訳に着手しました。今回は“ご本人吹き替え現象”は起きませんでしたが、内容がすとんと理解でき、外部資料を探す必要もなかったため、短時間であっという間に訳し終えました。



英語学習のヒント


確認したわけではありませんが、講演者は周りに非ネイティブが少ない環境にいるネイティブスピーカーだろうな、という印象を受けました。その意味では、日本であまり出会わないタイプの英語で、聞き慣れないために聞き取りにくいと感じる学習者もいるかもしれません。自分のリスニング力を責める必要はありませんよ。また、句や節が挿入された長めの文が多く、学習段階によってはかえって混乱することになりかねませんので、文法的な分析や読み込みはお勧めしません。一方、余裕のある学習者はそれを逆手にとって、英語トランスクリプトを使うなどして、「ネイティブらしさ」がどこにあるのか考えながら音声と文字情報を追ってみてください。

TED.comのページには視聴者からたくさんのコメントが寄せられており、この講演が多くの人にさまざまなことを考えさせるきっかけになっていることがわかります。ページの下の方までスクロールし、「Discuss」の中から特に返信が付いて議論になっているものを選び、それぞれの投稿者の立場や考え方の違いを読み取ってみましょう。賛成・反対を示す際の切り出し方をバリエーション豊かに知っておくと、実際に議論する場合に便利ですから、こうしたところから盗んでストックしておくといいですよ。また、議論に参加したつもりで自分の意見を書き、英語がわかる人にチェックしてもらうのも良い練習になります。


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アビゲイル・マーシュ: 人が利他的になる理由

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by nobuyuki umeji

自らの身を削ってでも他人を助けようとするなど、無私の行動をとれる人がいるのはなぜでしょう。心理学を研究するアビゲイル・マーシュは、赤の他人に腎臓を提供するドナーなど、極めて利他的な行為をする人々の動機を探っています。彼らは脳が違うんでしょうか?

(2016/11/4 字幕公開)

2016/11/03

#35. 代名詞の秘密 | ジェームズ・ペネベイカー | TEDxAustin



翻訳ウラ話


英語学習者に関わる研究や仕事をしている私にとって、英語の文法、言葉づかい、やりとりの様子などはどれも非常に身近な話題ですが、代名詞の使用頻度から心理や人間関係を解くという視点はとても新鮮で、翻訳を通じて理解を深めたいと思いました。英→日の翻訳では、通常、代名詞は訳出しない方が文として自然になりますし、字幕では文字数に制限があるので省くことが多いのですが、代名詞が主役のこの作品ではそうはいきません。あえて代名詞を逐一訳出しながらも、日本語として意味が通り、かつ読みやすく収まるように工夫しました。



英語学習のヒント


少し早口で聞き取りにくいと感じるかもしれませんが、英語そのものは決して難解ではありません。英語字幕をオンにして、必要なら速度を落とすなどして確認してみてください。日常会話で役に立ちそうな、よく使われる語が多いですから、気になった語を拾って自分のものにしていきましょう。特に、感情や様子を表す形容詞は覚えておくと便利ですよ。

講演の中で説明されている代名詞の特徴は、あなたの書いたメールにも当てはまるでしょうか。講演のもとになっている研究は母語話者を調べていますので、学習者の書く英語に同じ現象があらわれるとは限りません。特に日本人学習者の場合、日本語の影響から代名詞を使う頻度が全体的に低い可能性があります。また、代名詞を使っている場合でも1人称(I, my, me, mine)に偏っている傾向があるかもしれません。さらに、あなたのところに届いた英語母語話者からのメールはどうでしょう。代名詞に着目して頻度や使い方を調べ、気づいたことを書き出してみてください。それから再度自分の書いた英語に戻り、内容を変えないで別の表現ができそうなものがあれば書き直します。書きっぱなしではなく、自分の書きたいことが表現できているか、英語のわかる人にチェックしてもらうようにしましょう。


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代名詞の秘密 | ジェームズ・ペネベイカー | TEDxAustin

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Shoko Takaki

I, You, Me, We, Us などの簡単な語には私たちの人となりや感情を浮き彫りにできるとてつもない力があります。米国最大規模の大学で心理学科長を務めるジェームズ・ペネベイカーは私たちの言葉遣いを詳しく調べ、それがいかに私たちの自己理解や他者とのやりとり、根底にある強さや活力が湧く気持ちを反映し、それらを作り変えるかについて深く掘り下げます。

(2014/8/11 字幕公開)

2016/11/02

#34. アンドリュー・ソロモン: 揺るぎなき愛



翻訳ウラ話


いろんな事情が重なって、長いあいだ日本語字幕が完成しないままになっていた作品です。“平均”より時間的に長めで難度も高く、確かに翻訳しやすいタイプのものではありませんが、一方で、訳がなければ日本の視聴者には伝わりにくい講演でもあるので、重い腰を上げてタスクを引き受けることにしました。翻訳が終わり字幕が公開されたときには「やっとお届けできる」とホッとしました。



英語学習のヒント


学習用として考えるなら、たとえば句動詞を拾って、意味と使われ方を確認してみてはどうでしょうか。句動詞とは、動詞と副詞や前置詞がセットになった慣用的な表現です。この講演の中では"come out"、"take aback"、"pass down"など、たくさん使われています。

でも実は、この講演を「英語の学習」に使うのは無粋というか、もったいないような気がします。上級者でないと実行しにくいですが、作家である講演者が紡ぎ出す、豊かで繊細な言葉の芸術をじっくり鑑賞する、というのがふさわしいと思います。日本語字幕をオンにして内容をつかんでから、英語のインタラクティブ・トランスクリプトを使い、少しずつ区切って音声を聞きながら、ゆっくり読み進めるようにしてください。知らない語は辞書を引いたり、トランスクリプトを日本語に切り替えたりして確認しましょう。「さすが」と思える表現がきっと見つかるはずです。


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アンドリュー・ソロモン: 揺るぎなき愛

Japanese translation by Seiryu Matsuura, reviewed by Emi Kamiya

自分と根本的に異質な子供(例えば天才児、あるいは特異な才能を持った子供や犯罪に手を染めた子供など)を育てるというのは、どのようなことなのでしょうか?この静かに進行するトークの中で、作家のアンドリュー・ソロモンは何十組もの親たちとの対話を通して学んだことを語ります。無条件の愛と無条件の受容とは何が異なるのでしょうか?

(2014/8/11 字幕公開)

2016/10/14

#33. ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ: 富を贈ることが最高の喜び



翻訳ウラ話


あまり積極的に手を出すタイプの作品ではありませんが、某テレビ番組のために急いで字幕を公開する必要があるとのことでお手伝いしました。自分の興味や好みで作品を選んでいるとどうしても食わず嫌いになってしまいがちですが、翻訳チームの一員として貢献するという視点があると、個人的な理由では出会うことのないTalkと関わりを持つことができます。訳にあたり関連記事やゲイツ夫妻の他の講演を聞く機会も得られ、良い勉強になりました。



英語学習のヒント


TEDの中にたまにあるインタビュー形式です。講演と話し方が異なるのは当然ですが、オーディエンスを意識したやりとりという意味で普通の会話とも違います。どこがどのように違うか考えながら聞いてみましょう。また、3人の話し方の違いにも注目してみましょう。

台本のない会話なので、文が途切れたり、言い直したりしているところがありますし、内容も少しわかりにくい部分がありますので、英語の学習には向かないだろうと思います。語彙は専門用語を含め、ところどころに聞き慣れない語が見つかるでしょう。普段触れている英語によっては「普通の会話にしては堅苦しい」と感じる学習者もいるかもしれません。確かに公の場でのインタビューなのでヨソイキなところがまったくないとは言えませんが、知的レベルの高い大人同士の日常会話としては決して特別なタイプのものではありません。会食やパーティーなど、ざっくばらんな雰囲気の中でも洗練された英語を使う必要のある学習者にはとっては、参考になるところがあるでしょう。

11:45あたりから、自然な会話らしいおもしろさが生じています。字幕では字数制限の都合もあり、残念ながら補足ができていませんので、それを逆手に取って、行間を読む練習問題にしてしまいましょう。ビルが何を言っているのか、メリンダがそれをどう解釈し、どういう食い違いが起きているか、考えてみてください。こういうアクシデントから話者の人物像が見えてくるようになると、言語学習はグッとリアルで深みのあるものになってきます。


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ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ: 富を贈ることが最高の喜び

Japanese translation by Mari Arimitsu, reviewed by Emi Kamiya

1993年、婚約中のビルとメリンダ・ゲイツはザンジバルの海岸を歩きながら、マイクロソフト社から得た富を社会に確実に還元する方法について大胆な決断をしました。クリス・アンダーソンを交えたトークで、ゲイツ夫妻が自身のビル&メリンダ・ゲイツ財団にまつわる活動、結婚生活、子供たち、失敗について、そして富のほとんどを贈ることにどれほど満足しているかを語ります。

(2014/8/2 字幕公開)

2016/10/10

#92. ジュリー・リスコット=ヘイムス: 我が子を成功させる、やりすぎない子育て



翻訳ウラ話


聴衆の心をわしづかみにするパワフルな講演です。翻訳が終わった後で、講演者には弁護士の経験と詩の心得があることを知り(参照)、大いに納得しました。歯切れの良さ、テンポの良さ、喩えのわかりやすさ、言葉選びのセンス、盛り上げ方は見事ですね。

子育てや大学受験など、話題に馴染みがあるせいか、私の耳には、講演者の声や口調で日本語が聞こえてくるという“ご本人吹き替え現象”が起きていました。というわけで、訳すというより、聞こえるままに書き取るという感覚で、あっという間に字幕が出来上がりました。



英語学習のヒント


発音が明瞭で、話題も身近なものなので、学習に使いやすいと思います。音声面では、韻を踏んでいる部分など、英語のリズムや美しさを味わってください。口調やスピーチのスタイルという面では、学習者が真似するにはハードルが高いのと、重ね塗りするような技は言い回しとしてくどくなってしまう恐れがあるので注意してください。

語彙はところどころに見慣れない語やイディオムがあるのではないでしょうか。前後に似たような表現があるのでそれに助けられ、だいたいわかる場合が多いかもしれませんが、英語学習を目的とする人は、そういう語ほどあえてきちんと辞書を引いて意味を確かめるようにしましょう。2:22あたりで出てくる「コンシェルジュ」などの語は、日本語で通用しているぶん、かえって英語の発音が定着しにくいかもしれません。咄嗟に言われたり、言ったりする場面で対応できるよう、講演者のあとについて発音するなどして練習しておくといいですよ。

ま、"concierge"はアメリカ人にとっても外来語なので難しいんですけどね(参照)。


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ジュリー・リスコット=ヘイムス: 我が子を成功させる、やりすぎない子育て

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Saeko Hashimoto

過度な期待をかけまくり、子どものやることなすことを細かく管理する親は、子どもの助けになっていません。少なくともジュリー・リスコット=ヘイムスにはそう見えています。かつてスタンフォード大学で新入生担当学生部長を務めた彼女が、情熱とひねりの利いたユーモアをこめて主張します。親は子どもの成功を成績やテストの点数で決めるのをやめ、昔ながらの考えに立ち返って「無償の愛」を与えることに集中すべきなのです。

(2016/10/9 字幕公開)

2016/10/08

#32. ルース・チャン: 難しい選択の仕方



翻訳ウラ話


英語学習の方法を中心に、日々さまざまなご相談を受ける中で、「選択する」ということを避ける動きをよく見かけます。変わりたいけれど変われない、何か思いついても最初の一歩が踏み出せない人には、自分で選択をする代わりに、お金がない、時間がない…などの外的な理由を並べて、「だからできない」という結論で落ち着こうとする傾向があります。でも実は「選択しない」というのも選択のうちなんですよね。コーチの仕事は、選択の難しさや選択する辛さに共感しながら、「難しくて辛いけど、逃げないで選択しよう」という気持ちになれるよう、後押しすることなのかもしれません。日本語字幕によってより多くの人にこの講演を見ていただけるといいなと思って訳しました。



英語学習のヒント


発音は明瞭、スピードはゆっくり、文は短くてシンプルなので、学習用としていろいろな使い道があると思います。語彙もやさしく、絵やジェスチャーの助けもあるので、字幕オフで、メモを取りながら視聴してみてください。メモは英語でも日本語でも、記号や図でも構いません。仮説を立てては論破する、というのが繰り返されていますので、その1つ1つについて、「仮説」と「ダメな理由」をなるべく詳しく書き取ります。追いつけなくなったら多少戻したり止めたりしても良いですが、できるだけ止めずに進みましょう。見終わったらメモをもとに講演内容を再構築し、英語で書き出します。書き終わったらトランスクリプトと見比べて、文法や表現を含めて自分で添削してみましょう。


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ルース・チャン: 難しい選択の仕方

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Tadashi Koyama

このトークであなたの人生は本当に変わるかもしれません。どちらの職業を選ぼうか?別れるべきか、結婚するべきか?どこに住もう?こうした重要な決断は難しく、なかなか決められないものです。しかしそれは考え方が間違っているからなのだと、哲学者のルース・チャンは言います。彼女が提案するのは、本当の自分を確立するための、説得力のある新たな枠組みです。

(2014/7/30 字幕公開)

2016/10/05

#91. 精神的に強くなる秘訣 | エイミー・モーリン | TEDxOcala



翻訳ウラ話


「聞いてわかる」のと「日本語に訳せる」というのは違うものだなぁと改めて感じました。たとえば2:23の"I shouldn't have to deal with it." 日本語ではなんて言うんだろうとあれこれ考えを巡らせました。何度も再生して口調を確かめ、"I shouldn't have to ~"を含む文を検索して、文脈からそこに込められた感情を読み取ろうとしたのですが、結局これだという訳には出会えませんでした。どことなく「他の人ならいい」「自分以外の人にしてくれ」というニュアンスがありそうだと判断して、担当者間で「私じゃなくてもいいはず」「どうしてこんなことが」「こんな目に遭うなんて」などの候補を出しあいました。



英語学習のヒント


"cost" "deserve" "afford" など、日本語にしにくい動詞が次々と出てきます。こういう語は、受験テクニックによくある単語帳的な暗記ではなかなか使いこなすところまで到達しません。ターゲットとなる語が使われている文をなるべくたくさん集め、背景なども含めて目を通し、感覚的にじんわり吸収していく必要があります。手順としては、まず辞書を引いて用例を上から下まで読みます。できるだけ多くの辞書を当たってください。次にこの講演の例から、「どんな心情、どんな場面で使われ、どういうことを指しているか」ということを考えます。続いて、ターゲットの語を自分の状況にあてはめて文を作ります。最後に、英語がわかる人に前後関係を含めて説明し、自分の作った文が自分の言いたいことと合っているかチェックします。「いつかこういう場面になったら使おう」と準備しておくと、意外と“その時”はすぐやってきて、英語が咄嗟に出るという体験ができますよ。

また、この講演は時間感覚の学習にも使えます。学習段階に応じていろいろな方法が考えられますが、初学者はまず「過去」を表現する方法を拾ってきちんと押さえましょう。次の段階にある学習者は、過去をベースに、いわゆる「大過去」の表現を確認してください。さらに余裕のある学習者は、「現在形」が使われている部分に注目し、その効果や奥深さを味わってみましょう。TEDxの講演にはあいにく公式のトランスクリプトがありませんが、ネット上には使えそうな資料がありますので参考にしてください。


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精神的に強くなる秘訣 | エイミー・モーリン | TEDxOcala

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Reiko Bovee

精神的に強くなる能力は誰にでもありますが、ほとんどの人はその方法を知りません。どんな状況でも、考えを正し、感情をコントロールし、生産的な行動をとる方法を身につけるための練習をするという選択は可能なのです。精神的強さの基本的な3つの要素について、臨床ソーシャルワーカーと心理療法士の資格を持つエイミー・モーリンが語ります。

(2016/10/5 字幕公開)

2016/10/04

#90. ナディア・ロペス: 学校を開く理由、それは刑務所を閉鎖するため



翻訳ウラ話


都市部の教育問題について、私自身は直接携わってはいませんが、ニューヨークで教育に関わっていれば自然に見聞きする機会があるものです。また、周りに『Humans of New York』を読んでいる人もたくさんいます。というわけでこの話題には馴染みがありました。講演の中で紹介されている少年の記事はこちらです。

ひとくちに教育といっても、このタイプの公教育と、日本人向けの英語教育のような教育にはさまざまな違いがあります。私は大学院で言語学系ではなく教育を学ぶ道に進んだので、国・地域・個人などの規模、公的・民間の別、政策・開発・管理・教職などの立場、幼児教育から高等教育、生涯教育といった場面、科学・人文・芸術などの教科、マイノリティなど社会的側面、オンライン・オフライン・ハイブリッドなどといった、それぞれに異なる視点から教育を推進しようとする仲間たちと出会うことができました。この講演を聞きながら、何人かの顔が思い浮かびました。



英語学習のヒント


講演は約7分と短く、ゆっくり丁寧な話し方で、語彙も易しいので、字幕なしで内容を理解できるか試すのに良いのではないでしょうか。ところどころにAAVE(黒人英語)の特徴的な発音が見受けられるので、慣れていないと聞き取りにくいと感じるかもしれません。その部分は英語字幕やインタラクティブ・トランスクリプトを使って確認してみてください。

やや曖昧なところや、背景を知らないと理解しにくい部分があるので、詳しく読み込むなど分析的な作業には向かないでしょう。学習としては、気になった語を辞書で確認し、「聞いてわかる」というところまでに留めておく程度で良いと思います。


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ナディア・ロペス: 学校を開く理由、それは刑務所を閉鎖するため

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

私たちにとって子供たちは未来であり、子供自身がそれを信じることはとても重要です。ナディア・ロペスがニューヨーク市で最も行政サービスが行き届かず、暴力がはびこるブルックリンのブラウンズビル地区に学問のオアシスを開いた理由はそこにあります。彼女は子供たち全員の素晴らしい才能と能力を信じているのです。モット・ホール・ブリッジズ・アカデミー初代校長の(そしてブログ『Humans of New York』で有名になった)彼女は、私たちに元気を与えてくれる短い話を通して、「学徒たち」が自分と家族の明るい未来を描くために、どのように手を差し伸べているかを語ります。

(2016/10/4 字幕公開)

2016/09/29

#89. サルマン・カーン: 点数ではなく身に付けることを目指す教育



翻訳ウラ話


教育関係者なら誰もが知る、カーン・アカデミーのサルマン・カーンの講演です。内容はこれまでにも繰り返し主張されてきたとおりですが、今回は新たな喩えを使ってより伝わりやすく説明しています。

Flipped Classroom(反転授業)が広がりつつあるアメリカに比べ、日本では展開が遅いような印象があります。さまざまな思惑や物理的、感情的な事情はあるのでしょうけれど、そうこうしているうちに、学習者の時間がどんどん過ぎていってしまうのは惜しいような気がします。こうした講演の字幕や翻訳が、個別の習得型学習についての理念を正しく伝え、建設的な議論を起こすための一助になればいいなと思います。



英語学習のヒント


講演の内容は学習者や教育者にとって大いに有益ですが、この講演そのものを英語学習に使うとなると、なにもこれを選ばなくてもいいかなという感じです。発音、語彙、文法の面で、全体的にゆるいところがあるので、英語学習向きではありません。パブリック・スピーキングの面では、喩えのうまさ、聴衆を惹きつける魅力という点で学ぶところがあるかもしれません。

カーン・アカデミーには日本語版もあります(参照)。日本語・英語版ともに数学のビデオが圧倒的多数ですが、英語版には英文法のビデオもあります(参照)。学習者の中で、文法が得意で、基礎がきちんと固まっている人は、こうしたビデオを使うと自分の知識がすっきり整頓されていく感覚を楽しめると思います。一方、文法が苦手な学習者はかえって混乱することになりかねませんので、まずは日本語で書かれた良質な文法書を使って、シンプルな文、基本的な項目からきちんと抑えるようにしてください。基礎から丁寧に、じっくり、しっかりと固めましょう。「穴」があいたまま次の項目を積み上げてはダメですよ。


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サルマン・カーン: 点数ではなく身に付けることを目指す教育

Japanese translation by Yasushi Aoki, reviewed by Emi Kamiya

未完成の土台の上に家を建てようと思いますか? もちろんそんなことはしないでしょう。それならどうして教育においては、まだ基礎が出来ていないうちに先へと進めてしまうのでしょう? 難しい問題ですが、教育者のサルマン・カーンが、自分のペースで習得していくのを助けることで落ちこぼれつつある生徒を好学の士へと変えられるプランを話してくれます。

(2016/9/29 字幕公開)

#88. 脳を動かそう ― 脳の性能を上げる7つの秘密 | サンドラ・ボンド・チャップマン | TEDxBayArea



翻訳ウラ話


「7つの秘密」のうち少なくとも5つは、KECのコーチングセッションでしょっちゅうお伝えしているポイントです。一般的に私たちは自分の脳のキャパシティーを過信してあれもこれもと欲張り、結局、実のある学習のチャンスを逃してしまいがちです。良くないとわかっていてもついやってしまうのではないでしょうか。脳の習慣を変えるというのは簡単ではありません。「変わりたい」と望む学習者が、私たちコーチやこうしたビデオをリマインダーとして使いながら、自分で自分の学習をきちんとコントロールできるようになってくれたらいいなと思います。



英語学習のヒント


講演者はゆっくりした話し方で発音も明瞭なので、リスニング用に使うと良いかもしれません。字幕をオフにして、全体的な内容がつかめればOKです。ただ、幼い子どもに話しかけるような口調なので、その口調がキャラに合わない学習者は話し方がうつらないよう気をつけてください。

トランスクリプトの読み込みなどには向きません。文法的にふわっとした部分がいくつかあるため、学習段階によってはかえって戸惑うことになるからです。講演内容を文章で確認したい場合にはこちらのインタビュー記事などを読むことをお勧めします。


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脳を動かそう ― 脳の性能を上げる7つの秘密 | サンドラ・ボンド・チャップマン | TEDxBayArea

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Masaki Yanagishita

脳の病気にはなぜ忌まわしい烙印が押されるのでしょう? 脳は、史上最強の、他の何よりも圧倒的に複雑な電子生化学的マシーンであるということを考えてください。最近まで、この複雑な器官は静的で、変えることもできないと思われていました。大間違いです。科学的に有効性が認められた7つの秘密を学びましょう。脳のパフォーマンスを良くするために、誰でも実行できる秘密です。

(2016/9/28 字幕公開)

#87. 最も訳しにくい語の話 ― クリスチャン・アパルタ



翻訳ウラ話


内容がわかりやすく短い作品だったので、あっという間に訳し終えてしまいました。「訳しにくい」がテーマなのに訳しやすいというのはおもしろいですね。



英語学習のヒント


英語学習者は、この機会に自分の「you」の使い方を振り返ってみてください。日本人学習者が苦手とする「you」の使い方の1つに、「Generic you」と呼ばれるものがあります。たとえば外国人が一般的な日本人全体を指して「you」と言っているのに、自分一人に対してだと受け取ってしまい、話がこじれることがあります。

また、これは言語学の範疇ですが、日本語の「you」について考えてみても良いでしょう。講師は日本語を知っている人なのですが、ビデオでは日本語について触れていません。日本語の「you」は、ビデオで紹介されている「T-V」や「Pro-drop」といった特徴の他にもややこしい事情がたくさんあって、数分のビデオにはとても収まりません。"Japanese you"などのキーワードで検索すると情報がたくさんでてきますから、読んでみてください。もちろん、"Japanese I"も奥の深い世界ですよ。


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最も訳しにくい語の話 ― クリスチャン・アパルタ

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Misaki Sato

「you」は一見シンプルですが、実はどんな状況で使われているのかをしっかり見極めないと、なかなか正確には訳せない語です。さまざまな言語の例を挙げながら、なぜ訳すのが難しくなってしまうのか、その特別な理由をクリスチャン・アパルタが解説します。

(2016/9/16 字幕公開)

2016/09/25

#31. サラ・ルイス: 「あと一歩」を大事にしよう



翻訳ウラ話


人名がたくさん出てくるので、1つ1つのカタカナ表記を調べ、複数の例がある場合にはどちらが良いか選ぶのに手間がかかりました。また、アーチェリーのルールや用語に馴染みがなかったのでネット上に出ている情報を頼りに「行射」などの用語を確認しました。TED翻訳では通常ヤード・ポンドをメートルに換算していますが、スポーツによっては日本でもヤード・ポンドを採用している場合があるので、この作品内では「ヤード(m)」「ポンド(kg)」のように併記しています。講演内容そのものは理解しやすく、短時間で訳し終えました。



英語学習のヒント


発音の明瞭さは標準的で、比較的ゆっくり話しているので聞き取りやすいのではないでしょうか。文が短く、エピソードごとの区切りがはっきりしているので、内容理解の面でも扱いやすいでしょう。

字幕オフで「だいたいわかった」→日本語字幕オンで「わかった」まで進んだら、トランスクリプトまたは英語字幕を使って、知らない単語を拾ってみましょう。「わかっているつもりだったのに、改めて見てみると意外と知らない語が多いな」と思われるのではないでしょうか。辞書を引いて意味を確認してください。芸術関係者らしく、叙情的で豊かな表現がふんだんに使われています。


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サラ・ルイス: 「あと一歩」を大事にしよう

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Yumi Wagatsuma

美術史家のサラ・ルイスは、最初に就いた美術館での仕事中、ある芸術家の研究から重要なことに気づきました。それは、「すべての作品が完全な傑作というわけではない」ということです。彼女が私たちに問いかけるのは、私たちの人生における「ほぼ失敗」や「あと一歩」の役割です。成功や熟達の追求において私たちを突き動かしているのは、実はこの「あと一歩」なのでしょうか。

(2014/7/23 字幕公開)

2016/09/24

#30. ダン・ギルバート: 未来の自分に対する心理



翻訳ウラ話


有名なTED Speakerの1人であるダン・ギルバートの講演です。予備知識なくたまたま見たのですが、話がうまく、内容がおもしろいので引き込まれてしまいました。翻訳に着手した後で、彼の他のTEDやTEDxでの講演を聞きましたが(参照)、焼き直しやバージョン違いなどのように内容が重なることが一切なく、各講演がくっきり独立しているなと感じました。講演者の引き出しが多いのはもちろんですが、講演者自身が自分のパフォーマンスの鮮度を大切にしている表れかなと思います。



英語学習のヒント


発音は明瞭で、語彙は難しくありませんが、英語学習には使いにくいかなと思います。途中から畳みかけるように早口になるので、聴衆としてはワクワクしますが、学習者としては聞き取るのが大変で、ついていくのが厳しいと感じるのではないでしょうか。また、句や節が頻繁に挿入されているので、文の構成が入り組んで一文が長くなりがちです。トランスクリプトで確認すると、カンマでつながった文が多いのがわかるでしょうか。内容理解の面でも、気をつけていないと、何がどこにつながっているか、どれが本筋でどれが枝葉か見失いやすいです。

まずは無理せず、日本語字幕を見てひととおり内容を理解することをお勧めします。ただ、それだけで終わりでは少しもったいないので、最後の部分だけ英語に集中してみましょう。5:52あたりからラストまで、わずか50秒足らず、トランスクリプトなら1パラグラフ分です。話す速度も普通ですし、比較的短くわかりやすい文が並んでいますので、①ディクテーション→②英語トランスクリプトで答え合わせ→③翻訳→④日本語トランスクリプトで答え合わせ、のように使ってみてください。


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ダン・ギルバート: 未来の自分に対する心理

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Yuko Yoshida

「人間というのは未完成のくせに、自分たちは完成したと勘違いしているものだ。」ダン・ギルバートが紹介するのは、彼が「歴史の終わり幻想」と呼ぶ現象についての最近の研究です。将来の自分は、ずっと今の自分のままだろうと想像してしまう現象です。(でもそうは行きません。)

(2014/7/21 字幕公開)

2016/09/22

#29. ステラ・ヤング: 私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく



翻訳ウラ話


パラリンピックの開催時期とも重なり、奇しくも日本では最近になって「感動ポルノ」についての議論が起きているようですね。その流れでこの講演を初めて聞いたという人もいるかもしれません。講演者は日本語字幕公開の約5ヶ月後、2014年12月に亡くなりましたが、彼女のメッセージが今日改めて注目を集めているというのは素晴らしいことだと思います。

TEDにはコメディアンが登壇することがたびたびありますが、彼らのレトリックやニュアンス、皮肉やジョーク、遊びの部分を日本語に訳すのは本当に難しいです。きちんと訳してつまらなくしてもダメだし、狙いすぎて寒いことになるのも残念です。文化の違いも大いに関係しますので、個人的には少し物足りない「8分目」ぐらいの訳だとちょうどいいのかなと思っています。



英語学習のヒント


さすが話術のプロだけあって、発音は明瞭でテンポが良く、話の運び方やメリハリの付け方が見事です。文は短く語も難しくありませんので、まずは字幕をオフにして視聴してみてください。オーストラリア英語独特の特徴が母音などに見られますので、聞き慣れていないと戸惑いますが、頭の中でスペルを思い浮かべると解決するのではないでしょうか。解決しない箇所は英語字幕をオンにして確認してください。

3:00あたりで、英語の大文字についてチラッと触れる箇所があります。これは「"polish" と "Polish"」など(Capitonym:参照)のように辞書を引けばわかる話ではありません。感覚的なところなので、説明が難しく、ある程度英語を使い慣れないとつかみにくい部分です。「大文字と小文字で違いがあるんだな」ということを頭の片隅に置いておくと、いずれどこかで出会ったときにピンとくるでしょう。意欲のある学習者はこちらの記事などを読んでみてください。


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ステラ・ヤング: 私は皆さんの感動の対象ではありません、どうぞよろしく

Japanese translation by Mari Arimitsu, reviewed by Emi Kamiya

コメディアンでジャーナリストのステラ・ヤングは、たまたま車椅子で生活をしています。ヤングが強調したいのは、この事実だけでヤングが全人類を感化するような気高い存在になるわけではないと言うことです。この面白い講演で、ヤングは私たちの社会が障害者を「感動ポルノ」にしてしまう風潮を批判します。

(2014/7/18 字幕公開)

2016/09/21

#28. ローガン・ラプラント「ハック・スクーリング:ハッピーになるための教育」(TEDxUniversityofNevada)



翻訳ウラ話


YouTubeで公開されて以来、アメリカではFacebookなどで"viral"と呼ばれる広まり方を見せ、大きな話題になっていた講演です。日本語字幕はそれから1年以上もお待たせしていた状態でした。この経験をきっかけに、それまでの、翻訳タスクが自然に舞い込んでくるのを待つという姿勢を見直し、気になる講演に日本語字幕が付いていないのを見つけたら、自ら働きかけてなるべく早めに翻訳しようと思うようになりました。

講演者の13歳という年齢と、原文の雰囲気にできるだけ見合う表現を日本語でも再現できるように工夫しました。スキーやスノーボード用語、雪に関する語は日本語で知らなかったものが多く、勉強になりました。



英語学習のヒント


堂々とした魅力的な講演ではありますが、英語学習に使うとなると話は別です。これに限らず、子どもが話す言語を成人の言語学習に使うことには無理があるでしょう。たとえあなたが13歳でも、ESL環境にいるとしても、子どもを相手に英語を話す必要に迫られていても、英語学習という目的に限っては、大人の話す英語を使って学習することをお勧めします。

発音が聞き取れなかったり、意味がわからないところがあっても決して落ち込まないでください。あなたの英語力のせいではありません。

往々にして子どもは発音が甘く、母語話者でも聞き取りにくいことがあります。これは発達段階の子どもの口腔内に言葉を話すのに向かない構造的な特徴があり、舌や唇の使い方もまだ上手ではないせいです。また、子どもは周囲の人の言葉づかいを真似て言語を獲得していきますが、社会行動の範囲が狭いので、たとえば方言や身内だけで通じる用語などがどの範囲までの人になら理解され、どこを超えると理解されないかの判断がつきません。このように考えると、自分の母語を外国語として学習してきた人に対し、相手にわかる話し方をするというのがいかに高度なことか実感できるのではないでしょうか。


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ローガン・ラプラント「ハック・スクーリング:ハッピーになるための教育」(TEDxUniversityofNevada)

Japanese translation by Sumie Ichizaki, reviewed by Emi Kamiya

なぜ学校では幸せや健康になることを教えないのでしょう。13歳のローガン・ラプラントは、自分が考えた「ハック・スクーリング」によって、重要かつ最も意義深い「幸せになる」という気持ちに子どもたちを導くことができると主張します。多くの大人は、子供は大きくなったら幸せになって当たり前と思いがちですが、それは違うとローガンは訴えます。幸せや健康になるというのは、何よりも優先されるべきことなのです。

(2014/7/10 字幕公開)

2016/09/20

このブログについて

「字幕作成ウラ話+英語学習のヒント」へようこそ


このブログは、「TEDを英語学習に使いたい」と望む学習者が、背伸びしすぎや情報過多で疲弊してしまわないように、選別や咀嚼のサポートができたらいいなという思いから生まれたものです。 

ブログを書いているKEC Emiは2012年からTEDの翻訳に携わり、現在は日本語翻訳チームでLanguage Coordinator と呼ばれる責任者を務めています。 また、アメリカの大学院で日本人英語学習者について研究し、世界中にいる日本人学習者を対象に、オンラインで英語学習コーチングを提供しています。その2つの経験をもとに、
このブログでは、翻訳作品にまつわるエピソードとあわせて、日本人向け英語学習という観点でTEDを無理なく効果的に活用するアイディアをご紹介しています。  

日本人英語学習者の間でTEDはよく知られており、「英語を勉強するためにTEDを見る」という人も大勢います。 質の高い講演がいつでもどこでも、無料で視聴できますから、誰にでもすぐ使える教材になり得るでしょう。 学習者の求めに応じて、さまざまなアプリが開発されていますし、ワークショップや勉強会なども行われています。ネット上には「勉強法」や「オススメ動画」などの情報があふれています。 どれも善意から学習者のためを思って提供されている情報だと思います。

では、学習者は実際にTEDを使って効果的な学習ができているでしょうか。「たくさんありすぎて、どれを見たらいいかわからない」「試してみたけど、難しくて続かなかった」という声も聞こえてきます。せっかくやる気になってはじめたのに、もったいないことです。「なんとなく見てはいるけど、英語の勉強になっている気がしない」という声も聞きます。

学習者は一人ひとり、みんな違います。現在の英語力も、目標も、興味や関心も、学習経験も、解釈や記憶の仕方も違います。それをすべて無視して、不特定多数の学習者を特定の学習方法にあてはめることには無理があります。また、TEDのビデオには、専門性や抽象度が高く、ネイティブや高度な英語を使える人でも内容的に難しいと感じるものが含まれています。視聴者として感銘を受けたからと言って、そのビデオが英語学習教材に適しているとは限りません。

このブログでは、英語学習に向かないTalkは「向かない」とお伝えしています。学習に使えそうなものでも、学習者によっては難しすぎたり簡単すぎたりすることがありますし、使うとしてもその効果は使い方次第で
す。何が「あなた」に合っていて、どうすると「あなた」の英語が上達するかという複雑な問いに対する答えを、ブログという一方的に発信するメディアで見つけてもらえるとは思っていません。

それでも、さまざまな学習者を想定して、できるだけ多くの切り口から色とりどりのヒントを並べておくことで、学習者がどこかで「あ、これ自分のことだ」と感じたり、「これなら良さそう」「なるほど、やってみようかな」という気持ちになることはあるんじゃないかなぁと思っています。


KEC Emiについて詳しくはこちら、TEDの翻訳プロジェクトについてはこちらをご覧ください。





#27. ウーリ・アロン: 真の革新的科学のために、未知の領域へ飛び込むことが不可欠な理由



翻訳ウラ話


この作品前後、私は集中的に翻訳に取り組んでいたせいか、字幕なしのビデオを初めて見たときに、日本語の吹き替えが聞こえてくるような感覚をもつようになっていました。講演者が、声や口調、タイミングはそのままに、日本語を話してくれるので、それをただ書き取るだけで翻訳ができあがるというわけです。おかげで1本の翻訳がわずか1-2日程度で完成していました。

全体としては大変わかりやすく話してくれているのですが、10:05あたりからの表現が一部わかりにくかったので、友人の生物学者に助けを求め、噛み砕いて解説してもらいました。マニアックな話を、そうとは気づかず織り込んでしまうのは、いかにも研究者です。



英語学習のヒント


講演者はイスラエルの科学者です。アクセントはありますが、ほとんど気にならないでしょう。役者の経験を持つだけあって、表情や表現が豊かで、説明が上手です。英語をひたすら勉強して、言語以外に頼らず伝えきるというのも立派ですが、彼のように科学・演劇・音楽など多彩なチャンネルを使って聴衆の心を掴み、メッセージを伝えるというのも、学習目標としてアリですよね。

この講演には気持ちを表す形容詞がたくさん使われています。英語字幕やトランスクリプトから拾ってみてください。辞書で意味を確認するだけでなく、講演の中での使われ方や描写を踏まえて具体的にイメージしたり、自分はどんなときにその感情を抱いたか思い出したりしてみましょう。そうやってイメージや気持ち、過去の体験と結びつけることで、新しい知識は脳にしっかりと記憶されるようになります。


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ウーリ・アロン: 真の革新的科学のために、未知の領域へ飛び込むことが不可欠な理由

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Makoto Ikeo

物理学を専攻し博士課程で研究していた頃、ウーリ・アロンは自分のことを失格者だと思っていました。どの研究も行き詰まっていたからです。しかし、即興劇に救われ、彼は迷いの中にも喜びがあるのだということに気づきました。研究を、疑問と答えをつなぐ直線と見るのを止め、もっとクリエイティブなものと考えるよう科学者たちに求めます。専門分野を越えて共感できるメッセージです。

(2014/7/7 字幕公開)

2016/09/19

#26. ジェニファー・シニア: 幸福は親には高すぎるハードル



翻訳ウラ話


話題に馴染みがあったせいか、短時間で一気に訳し終えてしまいました。12:53あたりで出てくる"drones"は、翻訳当時(2014年6月)アメリカではすでに一般に通用する表現となっていましたが(参照)、日本ではまだその存在は一般的でなく、「ドローン」も日本語として定着していませんでした。時間・文字数に制約のある字幕の中で「無人機」と化して子どもの動向を追う親の姿をイメージしてもらうのは難しいと判断し、その時点で少なくともネット上では一般的に使われていた「ヘリコプターペアレンツ」の一種として扱うことにしました。現在(2016年9月)は日本でも「ドローン」がよく知られていますが、だからと言って、たとえば「ドローンペアレンツ」のような訳にしていたら、ドローンを操作して子どもに何か届ける親のことかと誤解されてしまうかもしれませんね。



英語学習のヒント


台本を用意してみっちり練習してきた様子が感じられ、TEDの講演にしてはやや作り込んだ感じが気になりますが、そのぶん英語学習には使いやすいでしょう。よく練られた文章の構成はライティングやパブリック・スピーキングのお手本として参考になります。インタラクティブ・トランスクリプトを開いて、左上の小さな画面で映像を流し、音声を聞きながら文字を目でたどってみてください。トランスクリプト上で気になる部分をクリックすると映像がその部分に飛びますから、発音を確認したり、一時停止してリピートする練習に便利です。


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ジェニフェアー・シニア: 幸福は親には高すぎるハードル

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Shoko Takaki

書店の育児コーナーには圧倒されます。作家のジェニファー・シニアが言うとおり、それは「巨大でカラフルな、皆のパニックの象徴」です。親であることは何故こんなにも不安だらけなのでしょうか?その理由は、現代の中流家庭の親たちが目指す、「幸せな子どもを育てる」という目標があまりに捉えどころがないからです。この歯に衣着せぬトークでは、より私たちに寄り添った達成しやすい目標が示されます。

(2014/7/1 字幕公開)

#25. アン・カーザン: 言葉が「本物」になる条件



翻訳ウラ話


私は英語や日本語について、調べたり考えたり教えたりするのが日常ですが、私の興味は一貫して「何が正しいか」より「いま、何が使われているか」にあります。というわけでこの講演は個人的に身近に感じられ、あっという間に楽しく訳し終えました。「最近の言葉の乱れは目に余る」というのは、いつの時代にも、おそらくどの言語でも言われていることなんでしょうね。



英語学習のヒント


聞き取りやすさは標準的で文も複雑ではありませんから、いろんな学習に使えそうな講演ですが、せっかく「word」がテーマなので、単語に焦点を当ててみてはどうでしょう。実際、キーワードがわからないと話についていけず、会場の笑いにも乗り遅れてしまうので、内容理解のためにも意味を確認しておくといいですよ。普通に辞書を引いてもいいのですが、この講演で紹介されている単語をもとに自分で英英辞典を手作りすると、意味を見て暗記するのと違い、語義の英語からさらに語彙や表現が学べます。やり方は学習者のレベルに応じていろいろ考えられますが、たとえば以下のような方法があります。

①ノートを用意し、英語字幕やトランスクリプトから、「defriend」「hangry」「adorkable」のように、見出し語だけを拾って記入する。 ②講演者の説明を頭の片隅に起きながら、自分なりに考えて、意味・定義を書き入れる。 ③辞書やインターネットを使って確認し、実際の意味・定義を書き入れる。 ④見出し語を使って例文を作る。

講演の中の単語が終わったら、次にAmerican Dialect Societyのページへ行って、最近の「今年の単語」についても同じように見出し語と語義を書き出し、例文を作ってみましょう。語義の中にわからない単語があったらそれを見出し語に立てて、辞書を引いて語義を記入していきます。ポイントは見出し語よりも語義です。簡潔に説明する感覚を養いましょう。

ちなみに、2015年の「今年の単語」はこちらのTalkと関連がありますよ。


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アン・カーザン: 言葉が「本物」になる条件

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Ricky Park

「hangry」「defriend」「adorkable」 などの俗語は、たとえ辞書に載っていなくても、英語という言語の意味における重大な不足を補っていると言えます。結局のところ、どの語を辞書に収録するか決めているのは誰なのでしょう?歴史言語学者のアン・カーザンは、辞書作りの舞台裏にいる人たちに目を向け、彼らが絶えず行っている選択を魅力的に紹介してくれます。

(2014/6/29 字幕公開)

2016/09/18

#24. ポール・ピフ: お金が人を嫌なヤツにする?



翻訳ウラ話


テーマに興味があったので翻訳タスクをとりました。ちょうど自分の研究のために2人組の会話を収録したビデオをひたすら見続けていた頃だったので、この講演で紹介されている研究やビデオのサンプルがどこかでリンクしたのかもしれません。できるだけ講演者の口調に合わせ、距離感の近い雰囲気を損なわないよう、かな・カナ・漢字の表記も含めた日本語の選択に気を配りました。



英語学習のヒント


講演者は西海岸カリフォルニア州の若手プロフェッサーです。紹介されているビデオの中に出てくる被験者を含め、全体にいわゆる「くだけた」表現が含まれています。日本人学習者の中にはこのタイプの英語が話せるようになりたいと憧れる人も多いのではないでしょうか。話し言葉としてはごく自然なものですし、聞いて内容がわかることは重要ですが、同じような話し方が適切かどうかは、あなたのキャラクター、場面、話す相手によって事情が変わってきますので注意してください。

語彙はさほど難しくなく、わからない語があっても辞書を引けば解決するレベルでしょう。似たようなことを表す語を使い分けている場面がいくつもありますので、英語字幕やトランスクリプトから拾ってみましょう。それぞれの違いを確認しながら、だいたい同じ意味のグループとしてまとめて覚えるようにするといいですよ。


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ポール・ピフ: お金が人を嫌なヤツにする?

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Yuko Yoshida

勝敗の決まっているモノポリーによって驚くべきことが明らかになります。この愉快かつハッとさせるトークで社会心理学者のポール・ピフが紹介するのは、自分が裕福だと感じる人がとる(残念な)態度です。不平等の問題は複雑で困難な課題ですが、朗報もあります。(TEDxMarinにて収録)

(2014/4/8 字幕公開)

#23. デヴィッド・スタインドル=ラスト: 幸せになりたいなら 感謝しよう



翻訳ウラ話


講演者がゆっくりと話しているということは、字幕作成の観点からすると、文字数に余裕があるということです。内容も易しく繰り返しが多いので翻訳そのものは短時間のうちに終わりました。非母語話者にはよくあることですが、ところどころ表現が微妙で解釈に幅ができてしまうところがありました。担当者間で「こういうことじゃないですかねぇ」と話し合いながら、できるだけ妥当と思われる解釈を選択しました。



英語学習のヒント


母語(オーストリアドイツ語)のアクセントが感じられますが、日本人学習者には意外と聞き取りやすい英語ではないでしょうか。一語一語を大切に、噛みしめるように語りかけてこられ、また、抑揚など表現も豊かなので理解しやすいでしょう。普段、日本語字幕を使っている人も、この作品はまず字幕をオフ、次に英語字幕をオンにして視聴してみてください。字幕1コマごとに一時停止して、英語を音読してみるのも良い練習になります。講演者の英語の中には、単語の発音や熟語の使い方など、いわゆる学校英語をきちんと学んだ形跡がありますが、見つけられるでしょうか。中学校の教科書を読み返したい気持ちになるかもしれません。基本をおさえるというのは簡単なようで、実はなかなかできることではありません。


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デヴィッド・スタインドル=ラスト: 幸せになりたいなら 感謝しよう

Japanese translation by Ayako Inoue, reviewed by Emi Kamiya

「私たち全ての人間に共通することは、幸せになりたいという気持ちを持っていることだ」と、修道僧であり諸宗教の研究者であるデヴィッド・スタインドル=ラストは言います。「幸せは感謝の心から生まれる」と彼は説きます。ゆとりを持ち、自分の方向性を見極め、そして何よりも感謝の気持ちを持つことについて、彼の教えが心に響きます。

(2014/2/9 字幕公開)

2016/09/17

#22. ジェームズ・フリン: なぜ祖父母世代よりもIQが高いのか



翻訳ウラ話


「mind」という語はいつもどう訳すのが良いか迷います。IQがテーマのこの作品ではさらに「cognitive~」や「mental~」などとも関わり、「お互いに近いんだけど、同じではない」「違うんだけど、日本語では表しきれない」というところで、正解のない問いに何度も悩まされました。

私は歯ごたえのある講演ほど日本語字幕が必要とされるだろうという考えから、こういう作品を積極的に選ぶ傾向があります。字幕がなくても、あるいは翻訳しなくても伝わる作品より、少し大変でも訳し甲斐があるものの方が、字幕を届ける意味が大きいような気がするからです。自己満足でしょうね。そうそう、講演の途中で馴染みのある地名が出てきた場面では、ほっこりしました。



英語学習のヒント


「聞き取れないわけではないけど、よくわからない」という印象を持つ学習者が多いかもしれません。内容がある程度理解できていないと厳しいでしょう。無理せず、日本語字幕をオンにして、講演の主旨をつかんでください。趣味程度で英語学習をしている人は、そこまでにして、他のもっとわかりやすいビデオを楽しむのが良いと思います。一方、たとえばアメリカの大学に進学する予定がある人は、このような学者らしい話し方をする教授に出会う可能性が大いにありますから、講義を聴く予行演習のつもりで、英語・日本語とも字幕をオフにして、メモを取りながら視聴してみましょう。18分で集中力が切れてしまうようでは、講義についていけません。できれば自分の取ったメモを誰かに見せて、効果的なメモが取れているかチェックしてもらうといいですよ。

学習用教材として使いたい場合は、たとえばトランスクリプトを開いて、まずは全体を見渡してみてください。このまるで論文のような文章を、ステージ上で淀みなく話していたんだということがわかり、講演者の凄さが改めて感じられるでしょう。次に、パラグラフの一部(5文前後)をランダムに選んで、内容をなるべく変えずにより平易な語や構文で書き換えてみてください。自分の持っている語彙や文法力でどこまで表現できるか、良い力試しになります。


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ジェームズ・フリン: なぜ祖父母世代よりもIQが高いのか

Japanese translation by Shohei Tanaka , reviewed by Emi Kamiya

「フリン効果」と呼ばれるものがあります。IQテストで、どの世代も前の世代より高い数値を示すというものです。私たちは本当に賢くなっているのでしょうか?それとも単なる考え方の違いでしょうか?道徳哲学者のジェームズ・フリンは、20世紀の知に関する歴史を通じて物事がめまぐるしく展開する中、考え方の変化が驚くべき(そして良いこととは限らない)結果をもたらしたという見解を表します。

(2014/1/20 字幕公開)

2016/09/15

#21. 坂 茂: 紙で出来た避難所



翻訳ウラ話


日本人の英語を翻訳する際の“あるある”ですが、「たぶんこう言いたいんだろうけど、そこまで補ってしまっていいんだろうか」と迷うところがありました。過不足なく、できるだけオリジナルに近い内容で日本語に訳すよう心がけました。翻訳のための情報収集として、世界各地での坂さんのご活躍や実績についてたくさんの記事を読みましたが、どのプロジェクトもスジが通っていて、一貫して美しく、感動的でした。ここで紹介されている避難所は、最近でもエクアドルや熊本で被災者の救いになっています。



英語学習のヒント


日本人の講演者が、TEDxTokyoという日本でのイベントで行った講演です。日本の英語教室をはじめ、日本人同士が英語で話す場面はいまや珍しくありませんが、そこには独特のジレンマも生じますので学習環境として選択する際には注意してください。たとえば発音や語彙では、日本語を話さない人には聞こえない部分が聞こえ、英語として意味のわからないはずの部分がわかって、なんとなく通じてしまうということがあります。TEDの字幕翻訳でも、講演者の母語(この場合は日本語)を話さない人が書き起こした英語のトランスクリプトに講演者の意図する語や表現が反映されておらず、母語がわかる人がそれに気づいて修正を依頼するということがあります。これを良いと捉えるか、良くないと捉えるかはそれぞれの学習者の学習目的によります。

また、日本人は日本人の英語に非常に厳しく、減点法で評価をする傾向があります。「外国人相手に英語を話すのは構わないけど、一人でも日本人がいるとやりにくい」という学習者もいます。これは教育ではPeer pressureと呼ばれ、やはり良い面と良くない面があります。いわゆる「ネイティブ信仰」や完璧主義とも関わりがあります。

この講演では、日本語母語話者が、自分の伝えたい内容を伝えるのにじゅうぶんな英語を使って、棒読みでも丸暗記でもない自然な自分の言葉としてメッセージを発信しています。その姿からは学ぶべきところがたくさんあります。外国人にウケそうなジョークを良いタイミングで差し込むところなど、さすが国際的な場に慣れている方だなぁと感じさせます。人々が講演や講演者に対して魅力を感じるポイントは、決して英語の完璧さや流暢さではありません。


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坂 茂: 紙で出来た避難所

Japanese translation by Akinori Oyama, reviewed by Emi Kamiya

サステナビリティが盛んにささやかれるようになるずっと前から、建築家の坂 茂 は紙管や紙などの環境に優しい建材を使う実験を始めていました。彼の手による見事な建造物の多くは仮設住宅として、ハイチやルワンダ、そして日本などの被災地で全てを失った人々を救うために建てられました。しかし、こうした建造物が現地に溶け込み、当初の目的を果たした後も引き続き愛されているということがしばしば起きています。(TEDxTokyoにて収録)

(2013/11/9 字幕公開)

2016/09/14

#20. ケリー・スウェイジー: 死してなお続く人生



翻訳ウラ話


固有名詞のカタカナ表記を除いて、訳に困った部分は特になく、短時間で一気に訳し終えた記憶があります。この作品のおかげで、それまで縁のなかったインドネシアの文化や風習について知ることができました。日本人の旅行記も意外とたくさん見つかりました。一般の旅行客が撮った写真を含め、ネット上の多くの画像から、色や質感、現地の空気がよく伝わってきてイメージしやすかったのも、翻訳作業が捗った理由だと思います。



英語学習のヒント


非常に聞き取りやすく、内容もわかりやすいので英語学習に使えそうです。講演者は異文化や外国語、英語が母語でない人に慣れているので、こうした話し方が板についているのでしょう。その意味では日本に住んでいる“ネイティブ”に近い印象です。

学習のアイディアとして、たとえばこの講演の形式やプレゼンテ―ションの仕方をお手本に、日本の文化について紹介するアクティビティをやってみてはどうでしょうか。「日本のことを知らない外国人は、日本のどこに興味を持つだろうか」と考えてネタを探し、それについて調べ、台本を書いて、スラスラ説明できるまで練習を繰り返します。ウィキペディアを読めばわかるようなものではなく、あなたならではの紹介の仕方を見つけてください。


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ケリー・スウェイジー: 死してなお続く人生

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Yuriko Hida

タナ・トラジャで人々を結びつける社会的行事は結婚や出産ではありません。インドネシアのこの地域で社会生活の中心となっているのは、盛大で賑やかな葬儀です。人類学者ケリー・スウェイジーは、親戚の遺体を何年にも渡り世話し続けるこの文化に注目しています。西洋の感覚からすると奇妙に感じられますが、実はこれこそが事実をより忠実に反映していると彼女は語ります。生きていることが終わっても、大切な人との関係は終わらないのです。(TEDMEDにて収録)

(2013/10/30 字幕公開)

#19. エリザベス・ロフタス: 記憶が語るフィクション



翻訳ウラ話


法律に関する語について、担当者間で訳語を慎重に選択しました。法律の専門家が翻訳に関わっていたからです。一般的には、その分野に詳しければ簡単に訳語を見つけられるように思われるかもしれませんが、実は特定の分野の用語に詳しい専門家ほど訳語の選択に悩むものなのです。詳しいからこそ、英語と日本語の概念のズレに敏感で大胆に踏みきれなかったり、正確な訳だとしても、その用語に慣れすぎていて専門性が測れないために、一般視聴者に伝わるかどうか確信が持てなかったりするのです。私も自分の専門についてはまったく同じなので、そのなんとも言えないジレンマがよくわかります。



英語学習のヒント


講演者の英語は聞き取りやすく、理解しやすいものです。語彙レベルとしてはやや馴染みのないものが含まれていますが、難解というほどではないでしょう。面倒がらずにきちんと辞書を引いて確認してください。講演者のサービス精神からか、よく聞くとツメの甘いところやツッコミどころがあります。トランスクリプトを読み込むなどしてじっくり考え、「オヤ?」と思うところがあったら、どこが引っかかるのか書き出してみましょう。「講演者は~と言っているが、自分は~と思う」「講演者はここまでしか言及していないが、こう展開するとよかった」などの構成でパラグラフを書いてみると力がつきます。


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エリザベス・ロフタス: 記憶が語るフィクション

Japanese translation by Yuko Yoshida, reviewed by Emi Kamiya

心理学者のエリザベス・ロフタスは、記憶の研究をしています。正確には、彼女が研究しているのは「偽りの記憶」―起きてもいないことの記憶や、事実とは違う形で残っている記憶です。こうした虚偽記憶は、一般に考えられているより普通にあることです。ロフタスは、衝撃的な事例や統計を紹介し、私たちが考えるべき重要な倫理的問題を提示します。

(2013/10/24 字幕公開)

2016/09/08

#18. ケン・ロビンソン: 「教育の死の谷を脱するには」



翻訳ウラ話


「TEDと聞いて、真っ先に思い浮かぶのはこの人」という視聴者も多いのではないでしょうか。解説の必要はありませんね。字幕公開から2年半が経った2016年春には、実際にDeath Valleyで約10年に一度のSuper bloomが起きました(参照)。そのニュースを聞いて、改めてこの講演を見返したのでした。



英語学習のヒント


イギリス英語、イギリス人らしいジョークの織り交ぜ方、しかもアメリカでアメリカ人を相手に話しているという点に注目してください。英語母語話者同士の異文化間コミュニケーションが感じられるでしょうか。

英語は聞き取りやすく、理解しやすいものです。使われている語も基本的なものが多いので、もし知らない語があったらきちんと辞書を引いて覚えておきましょう。記憶は一度見ただけではなかなか定着しませんから、たとえば新しい単語なら、意味を調べてイメージする、文字を見ながら発音する、文字を見ないで発音する、文を作る、作った文を読む、会話の中で使う…というように、いろんな角度から脳に刺激を与えるようにしてください。

インターネットのおかげで、学ぶ機会や教材はいくらでも手に入るようになりました。講演者が勧めている「読みものリスト」も良質なものがそろっていますよ。学習者にとっては、自分で自分の創造力を開花させるチャンスがいつでもどこにでもあるということです。ただし英語学習に関する情報は玉石混淆でもありますから、質の高いもの、自分の目的や個性に合ったものをしっかり見極めて、労力や時間をムダにしないようにしてください。KECは自分の可能性を信じて学び続けようとする学習者を応援しています。


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ケン・ロビンソン: 「教育の死の谷を脱するには」

Japanese translation by Yasushi Aoki, reviewed by Emi Kamiya

人の精神が豊かに花開くために必要な3つの条件と、現在の教育風土がいかにそれに反したものであるかをケン・ロビンソン卿が語ります。可笑しくも心動かされるこの講演で彼が示すのは、私達の直面している教育の「死の谷」をどうすれば脱することができるのか、どうすれば若い世代を可能性の土壌で育むことができるのかということです。

(2013/10/3 字幕公開)

#17. ジョン・サール: 意識 ― 私達人間に共通するもの



翻訳ウラ話


言語学とコミュニケーション学を学んだ身としては「わ、speech actの人だ」という感じで素通りできず、ついタスクを取ってしまいました。…が、大変でした。訳しながら、わかったようなわからないような、わかったと思った途端にわからなくなるような体験をしました。特に8:50あたりでは何が「原因」に該当するのかがなかなか理解できず、他の担当者に図を描いて説明してもらいました。とほほ。

著名な研究者らしく、立場が非常に明確で、持論をどんどん展開していきます。「言いたいこと言っているなー」と感じられるところは、日本語でも遠慮のない表現を選ぶようにしました。



英語学習のヒント


TEDxCERN(欧州原子核研究機構で行われたイベント)という背景もあり、科学や研究などの知識を備えたオーディエンス向けの講義という雰囲気です。上述のとおり、内容が高度なので多少英語がわかる程度では太刀打ちできない部分があります。英語学習としては、理解できるところを拾う程度に留めておくことをお勧めします。


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ジョン・サール: 意識 ― 私達人間に共通するもの

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

哲学者ジョン・サールが意識の研究を擁護する主張を展開します。また、真剣な意識の研究に対する反論を体系的に論破していきます。認識の原因となる脳内の処理過程がわかるにつれて、意識を生物学的現象と考えることが重要になります。またサールは、意識を大規模なコンピュータ・シミュレーションと捉える意見を否定します。(TEDxCERNにて収録)

(2013/9/21 字幕公開)

#16. マーガレット・ヘファーナン: 「意図的な無視」の危険性



翻訳ウラ話


"willful blindness"の意味を正しく、しかもタイトルを含めキーワードとしてふさわしいように訳すために頭をひねりました。すでに出版されていた著作の訳本で使われている「見て見ぬふり」は便利で良さそうなのですが、担当者間で「ちょっと違うよね」という話になりました。「見ないようにする」と「見なかったことにする」とは別と判断し、やや苦しいのですが「意図的な無視」を選択することにしました。



英語学習のヒント


初心者向けではありませんが、日本のいわゆる“教材”に物足りなさを感じている学習者にはちょうどいいかもしれません。発音が明瞭で、語り手として技術が高いので音声面でもいろいろな使い道がありそうです。あるいは読み・書きを強化するために、以下のようなアイディアを試してみてはどうでしょう。

TEDのページの下の方にある"Discuss"のコーナーには、視聴者が講演内容を自らの経験と絡めて多くのコメントを書き込んでいます。いくつか読んでから、同じように自分の経験と絡めてコメントを書いてみましょう。
講演者のプロフィールページから、リンク先の関連記事を読んでみましょう。
③この講演の元になっている著作に挑戦してみましょう。読破できたら、きっと達成感と自信が得られます。

①~③は、この講演者の他の講演でもできます。


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マーガレット・ヘファーナン: 「意図的な無視」の危険性

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

ゲイラ・ベネフィールドは仕事中にある異変に気づき、やがて自分の住む町の恐ろしい秘密を暴いてしまいました。彼女の町はアメリカのどの場所よりも死亡率が高く、80倍にも上っていたのです。しかしそれ以上に彼女が衝撃を受けたのは、住民にそれを伝えようとした時でした。人々がその事実を知りたがらないのです。マーガレット・ヘファーナンは、歴史の教訓とも活動の呼び掛けとも呼べるこの話を通して、「意図的に無視すること」の危険性に警鐘を鳴らすとともに、自ら声をあげた普通の人々を讃えます。(TEDxDanubiaにて収録)

(2013/9/14 字幕公開)

2016/09/06

#15. ロベルト・ダンジェロ+ フランチェスカ・フェデリ: 我が子の病気から学んだ人生の教訓



翻訳ウラ話


子どもがかわいかったという単純な理由で翻訳に着手しました。英語の非ネイティブの講演には同じような傾向がありますが、言葉の数が少なく、文が短く、構文がシンプルで理解しやすい反面、いざ訳すとなると意味が曖昧で、想像で補わなくてはならないところがあります。担当者間で「こういうことが言いたいのでは?」と意見を出し合って、補足として妥当と思われるものを選んで付け加えました。



英語学習のヒント


イタリア語母語話者の英語です。母語の影響があるのは明らかですが、人前で話す場合というのは母語のアクセントが日頃より強めに出るものです。TEDのような大きなステージ上でこの程度ということは、個人的に対話した場合のアクセントはほとんど気にならないレベルかもしれません。英語で発表するなどの予定がある人は、練習の段階で自分の発表を録音・録画し、日頃の話し方との違いを観察してみるとよいでしょう。

病気に関する語など一部の専門用語を除き、語彙は比較的平易で文も複雑ではありません。この講演からは、同じ非母語話者として、「たとえ少なくとも自分の持っている道具をフル活用して、自分の言いたいことをきちんと伝えることができる」という面で学ぶべきところがあると思います。学習として、ボキャブラリーを増やしたり、複雑な構文を使うこともある程度は大事ですが、それはキリのないことでもあるので注意してください。言語として知識を突き詰めることと、英語を使うことは別です。


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ロベルト・ダンジェロ+ フランチェスカ・フェデリ: 我が子の病気から学んだ人生の教訓

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Shohei Tanaka

ロベルト・ダンジェロとフランチェスカ・フェデリは、自分たちの間に生まれた男の子マリオは健康であると思っていました。しかし、生後10日でマリオに周産期脳卒中が見つかりました。左半身の自由が利かないマリオを前に、二人は厳しい疑問に取り組み始めました。マリオは“正常”になるのだろうか?充実した人生を送れるのか?不安に直面した親が、いかにしてその状況を転換させていったか。胸を打つ話です。

(2013/8/31 字幕公開)

2016/09/05

#14. レズリー・ヘイズルトン: 疑いは、信仰の本質



翻訳ウラ話


TED翻訳の魅力の1つに、よく知らない分野をちょっとだけ覗き見して、賢くなったような気になれる、というのがあります。講演を聞き、文字で読み、周辺情報や関連記事に目を通しながら訳し、字幕公開までに何度も内容をなぞるおかげです。この作品を訳すにあたり、講演の中で紹介されている物語や、固有名詞のカタカナ表記など、知らなかったことがたくさんあって勉強になりました。講演者の深みのあるきっぱりとした口調や、表現の豊かさ、語り手としての技術の高さをなんとか訳に反映できるよう気を配りました。



英語学習のヒント


英語学習の教材としては、少なくともそのままでは使いにくいでしょう。たとえば字幕なしで“浴びる”式に流して見るだけでは、ほとんど頭に残らないのではないでしょうか。背景の宗教的な知識がないと、内容理解も厳しいです。日本語字幕をオンにして視聴し、場面を想像して文学的な美しさを味わい、力強いメッセージを受け止めるだけに留めておいても良いと思います。

あえて英語学習用にしたいという人は、たとえば語彙に絞ってみてはどうでしょう。辞書を丁寧に引いて、意味や発音を確認しながら、①発信(書く・話す)で使えるようにする、②受信(読む・聞く)の際に意味がわかればOK、③今回限りで忘れちゃってもOK、と3段階に分けて整理してみましょう。この講演には手強い語がたくさん使われていますが、キーワードとして出てくる"faith"や"essential"などの基本的な語も、試しにきちんと辞書を引いてみると、意外と奥が深いと思うかもしれませんよ。


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レズリー・ヘイズルトン: 疑いは、信仰の本質

Japanese translation by Yuriko Nakamura, reviewed by Emi Kamiya

レズリー・ヘイズルトンは、イスラム教預言者ムハンマドの伝記を書いているとき、あることに衝撃を受けました。古い記述によれば、コーランの啓示を受けた夜、彼は初めに疑い、畏怖、恐怖さえも持ったというのです。そしてこの経験こそが彼の信仰の基盤となりました。ヘイズルトンは信仰の土台としての疑いと問いに対する新たな見解を提唱し、あらゆる宗教の原理主義の終結を呼びかけています。

(2013/8/28 字幕公開)

2016/09/04

#13. ビル・ゲイツ: 教師へのフィードバックでもたらせる変化



翻訳ウラ話


教育というテーマに、「コーチ」「フィードバック」「録画」「振り返り」というKECでお馴染みの概念が絡んでいたので、ぜひ翻訳したいと思いました。悩まされたのはキーワードである "satisfactory" という表現です。「優良可」のように並べてならともかく、単独で出てくるのでどう訳したものか困りました。ダメではなく、そうかと言ってすごく褒めているでもなく、評価としてピンと来ない感じを出すために担当者間で議論を重ね、「よくできました」「ふつう」「まあ良し」などの案を出したうえで、最終的に「十分」を選択しました。



英語学習のヒント


みなさんよくご存じのビル・ゲイツの講演です。アメリカの有名経営者らしく、大勢を前にいかにも慣れた様子で、誰にでもよくわかる話し方をしています。「教室」や「教師」は身近な話題なので、内容も理解しやすいでしょう。途中で出てくる高校の先生の英語も聞き取りやすいです。学習用教材としていろいろな使い方が考えられます。ほとんどの文は短く構文的にも複雑ではありませんから、トランスクリプトを使って翻訳をしてみたり、音読をしながらビデオの音声を確認したりしても良いでしょう。リーディングには、たとえばビデオを見た後でこちらの関連記事を読むと、より理解が深まります。「ニューヨーク・タイムズ紙の記事が読めた」という自信がつくのではないでしょうか。講演の内容を要約したり、感想や自分の意見を書いてみたりすると、ライティングの練習にもなります。

いずれの学習も、やりっ放しではなく、自分で振り返ったりフィードバックをもらったりすることができるとより効果的です。


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ビル・ゲイツ: 教師へのフィードバックでもたらせる変化

Japanese translation by Yasushi Aoki, reviewed by Emi Kamiya

最近まで、教師が受けられる唯一のフィードバックは、年に一度の「十分」という一言だけでした。フィードバックや指導がなければ改善しようがありません。優れた教師でも適切なフィードバックによって改善できるところはあるとビル・ゲイツは言います。そしてそのようなフィードバックをすべての教室にもたらそうというビル&メリンダ・ゲイツ財団のプロジェクトを紹介しています。

(2013/8/4 字幕公開)

2016/08/27

#12. スガタ・ミトラ「クラウド上に学校を」



翻訳ウラ話


勝手に“3部作”と呼んでいた「教育の未来」シリーズの第3弾。この年のTED Prizeを受賞した講演です。「教える」よりも「自然に学びたくなるような環境を作る」という考えが私の好みに合っています。

第1弾 第2弾

英語学習のヒント


講演者はインド出身で、イングランドの大学教授です。話し方はゆっくりですが、独特のアクセントに慣れていないと聞き取りにくいと感じるかもしれません。このタイプの英語に慣れたい学習者は、まずは字幕なしで聞いてみましょう。次に、英語字幕をオンにして音声を聞きながら文字を目で追います。英語そのものは難しくなく、むしろ易しいことに気づくでしょう。最後に字幕をオフにして、もう一度ビデオを見てみます。最初より聞き取りやすくなっているのではないでしょうか。最初は聞こえなかったのに聞こえるようになった部分をメモしておくと、自分の聞き取りにくいパターンが見えてくるかもしれません。


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スガタ・ミトラ「クラウド上に学校を」

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Tadashi Koyama

2013年のTED賞受賞にあたり、スガタ・ミトラは大胆にもこう言いました。「“クラウド上の学校”という学習実験室をインドに作りたいと思っています。子どもたち同士が協力して自由に調査したり学習したりできる場所です。学習に必要な物質的、人的支援はクラウド上にあるものを利用します」。自己学習環境 SOLE について、彼の刺激的なビジョンが語られます。受賞の内容は tedprize.org をご覧ください。

(2013/5/27 字幕公開)

#11. リタ・ピアソン「すべての子どもに強い味方を」



翻訳ウラ話


独特のテンポとユーモアで会場の人々の心をグッとつかみ、教育者としてたっぷりの愛情をバンバン投げつけてサッと去っていく姿がカッコいいと思いました。講演の勢いそのままに、訳はあっという間に出来上がりました。日本語字幕が完成し、1ヶ月あまりして飛び込んできた突然の訃報(参照)。力強い声が耳に残っていただけに、とてもショックだったのを覚えています。



英語学習のヒント


African American Vernacular English (AAVE、いわゆる黒人英語)に憧れる学習者もいますが、特別な事情がない限り、日本人学習者がこのタイプの英語をターゲットに学習を進めることはとても少ないでしょう。発音やイントネーションにはっきりした特徴があります。AAVEは文法にも特徴がありますが、この講演者は教育者ということもあり、文法としては標準的と考えて差し支えありません。

話し方を真似することはなくても、特にアメリカではこのタイプの英語に出会うことも普通にありますから、その予定がある学習者は慣れておくとよいでしょう。ビデオを再生しながらインタラクティブ・トランスクリプトを使うと、文ごとに発音が何度でも確認できて便利ですよ。イディオムなど、意味のわからない表現があったらまずは辞書を引き、見つからなければ日本語字幕を利用してください。


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リタ・ピアソン「すべての子どもに強い味方を」

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by nobuyuki umeji

40年の教師経験の中で、リタ・ピアソンにこう言った同僚がいました。「子どもを好きになる手当ては貰っていない」。それに対し彼女は「子どもは嫌いな人から学ばない」と反論します。教育者に向けて、生徒たちを信じ、生徒たちと実際に人間同士のつながりを持つ大切さを語った熱いメッセージです。

(2013/5/11 字幕公開)

#10. キース・チェン:言語が貯蓄能力に与える影響



翻訳ウラ話


言語と貯蓄率を結びつけるという発想がおもしろいと思い、翻訳してみました。英語に比べ、日本語では一般的な語と専門用語をくっきり分ける傾向があるので、「経済用語かな?」と思われる語は友人の日本人経済学者に確認しながら訳を完成させました。この作品に限らず、私が「専門用語かも」と思って専門家に尋ねると、一般的な語と同じ使われ方で、返ってきた回答は“普通”の訳…ということがよくあります。訳語の確認は辞書やネット検索などでおこないますが、“普通”の訳は専門用語ほど簡単に調べがつかないので、慎重にならざるを得ないのです。英語から日本語へ用語を取り入れる方法には、「特別な訳語を作って専門用語化する」「一般的な訳を当てる」「カタカナにする」などの選択がありますが、そのパターンは分野ごとに偏りがあるような気がします。



英語学習のヒント


講演者は英語と中国語のバイリンガルで、経済学の若手プロフェッサーです。きびきびした口調、テンポが良くやや早口で、畳みかけるように進むプレゼンテーションは、ビジネス系の分野ではお馴染みの特徴ではないでしょうか。ビジネス系で大学院への留学などを目指す学習者は、字幕がなくても内容が理解できるよう、この講演をトレーニングに利用しましょう。一方、日本国内での趣味の英会話はもちろん、いわゆる語学留学程度を予定している学習者は、聞き取れなくても気にしないことです。無理せず、日本語字幕で内容をつかんでください。

TEDのページに寄せられている、この講演に対しての視聴者からのたくさんのコメントは、批判的思考の練習に使えそうです。言語、統計の面で、それぞれどんなツッコミがなされているかまとめてみましょう。グループでの協働学習が可能なら、投稿されているコメントの妥当性を話しあったり、自分たちでコメントを書いて評価しあったりするのも良いでしょう。


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キース・チェン:言語が貯蓄能力に与える影響

Japanese translation by Tomomi Anzai, reviewed by Emi Kamiya

経済学者が言語学の分野から学べることとは?行動経済学者キース・チェンが自身の研究から見出した興味深いパターンを紹介します。未来の概念のない言語("It will rain tomorrow" ではなく "It rain tomorrow" が許容される言語)と高い貯蓄率の間には強い相関関係があるのです。

(2013/5/9 字幕公開)

2016/08/26

#9. BLACK 「ヨーヨーの達人への道」



翻訳ウラ話


日本人の講演ということで、「こう言おうとしてるんだろうな」というのが痛いほど伝わってくるのですが、あまり補い過ぎないように気をつけて訳しました。字幕公開後、ご本人から「まさに言いたかったとおりに訳されていて、本当に嬉しい」というメッセージをいただいたときには、心底ホッとしました。



英語学習のヒント


英語の母語話者でも、ネイティブ並みの英語力をもつ人でも、TEDのメインステージに立つというのは大変なことです。TEDキュレーターのクリス・アンダーソンが最近、TEDトークの指針を紹介しましたが(参照)、もっとも重要なアイディアの伝達に加えて、「日本人でもこんな堂々としたスピーチができる」という姿が示されていることは、学習者の励みになるのではないでしょうか。

英語はきちんと用意されており、何度も練習したであろうことが伝わってきます。自信がないと、どうしても小声になったりごまかしたりしたくなりますが、実はそのせいでより伝わりにくくなり、また自信を失うという悪循環を招きます。聞き手に敬意を払い、相手の目を見て、文末まではっきり言う。そういう誠意が感じられると、聴衆はちゃんと応えてくれるものです。

同じ日本人学習者として、日本人の話す英語を聞く際の姿勢にも注意しましょう。アラ探しより良いところを見つけ、学ぶべきところを盗んだ方が、上達に近づきますよ。


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BLACK 「ヨーヨーの達人への道」

Japanese translation by Yasushi Aoki, reviewed by Emi Kamiya

ヨーヨーをただ回らせるだけでも四苦八苦していた日を覚えていますか? うまい人なら「犬の散歩」もできたかもしれませんね。でも、あなたはまだ本当のヨーヨーを知りません。日本から来たヨーヨー世界チャンピオンのBLACKが、人生の情熱を見出した心に響く話とともに、息をのむパフォーマンスをお目にかけます。これを見たら、引き出しの奥からまたヨーヨーを引っ張り出そうという気になるかもしれません。

(2013/4/25 字幕公開)

2016/08/25

#8. アンドレア・シュライヒャー 「データに基づく学校改革」



翻訳ウラ話


偶然同じ時期に私が携わることになった「教育の未来」がテーマの講演、第2弾です。講演者は日本でもよく知られる教育指標事業PISA (Programme for International Student Assessment)(参照)の責任者。ドイツ人が語る、教育統計の国際比較です。切り口はずいぶん違いますが、第1弾との共通点がかなりあります。



英語学習のヒント


ヨーロッパ人の英語に慣れていないと、聞き取りにくいと感じるかもしれません。アクセントや文末の処理の仕方が、日本のリスニング教材等で聞く英語とは違うからです。表情も豊かとは言いがたいので、ちょっと怖いと感じる人もいるでしょうか。文化の違いもありますが、私はこの講演者の口調や表情が、講演の内容や説明の仕方によく合っていて、説得力を増しているように思います。日本人向けのスピーチ練習はアメリカをお手本にしているものが多いですが、世界にはこういうやり方もあるということで、参考にしてください。

教育の研究や統計に馴染みがないと、語彙や内容理解の面でちょっと厳しいかもしれません。無理せず日本語字幕を利用して、内容がわかってから英語に移ることをお勧めします。

こうした統計報告は大きな関心を集める一方、どうしても物議を醸すものです。TEDのページには視聴者からたくさんのコメントが寄せられています。いくつか読んでから、自分だったらどんなコメントを残すか考え、1パラグラフ書いてみましょう。


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アンドレア・シュライヒャー 「データに基づく学校改革」

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

教育システムが機能する要因を捉える方法はあるでしょうか。アンドレア・シュライヒャーが紹介するのは、世界規模の学力テストPISAです。このテストでは各国の順位が示されるだけでなく、データをよりよい学校づくりのために活用することができるのです。自分が住む国や地域の順位を見ながら、優れた成績をあげる要因について学びましょう。

(2013/4/23 字幕公開)

#7. 「遊びから情熱、そして目的へ」 トニー・ワグナー (TEDxNYED)



翻訳ウラ話


教育の研究をする者として、私は日本を含む世界の国々の教育がどういう問題を抱え、どう改善し、どう報告されているかに大いに関心があります。当時、偶然にも「教育の未来」をテーマにした講演の翻訳が立て続けに私のところへ来たので、勝手に「3部作」と呼んでいました。これはその第1弾、アメリカ人がアメリカの教育の問題点を語る編です。



英語学習のヒント


さすが学校の先生という感じで、明瞭な発音、緩急や抑揚のついた聞き取りやすい英語です。話すスピードはやや速めですが、そのせいもあって話のテンポがよく、ユーモアを交えて聞き手を飽きさせません。文としても短めでシンプルな構成のものが多いので、理解しやすいでしょう。あいにくTEDxの講演には公式のトランスクリプトがついていませんが、ネット上を探すと見つかるかもしれませんので読んでみてください。また、この講演者が同じテーマを論じた本や記事は、リーディングや要約の練習に使えます。たとえばこちらの記事は特に有名なものですが、講演を聞いてから読むと内容がよくわかると思います。

一通り内容がつかめたら、英語字幕をオンにして、文字で確認してみましょう。語彙は全体的に平易ですが、ところどころ見慣れない語やイディオムが使われているのに気づくのではないでしょうか。さて、そこから? それがこの講演のテーマですよね。


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「遊びから情熱、そして目的へ」 トニー・ワグナー (TEDxNYED)

Japanese translation by Chieko Tamakawa, reviewed by Emi Kamiya

トニー・ワグナー氏は最近、ハーバード大学のテクノロジー&起業センターの初代革新教育フェローに就任しました。彼は国の内外を問わず学校や教育区、財団を対象に幅広く助言を与えています。

(2013/4/21 字幕公開)

2016/08/21

#6. アマンダ・パーマー 「“お願い” するということ」



翻訳ウラ話


なんといっても悩ましかったのはタイトルです。「The art of ~ing」というのは英語としては馴染みのある表現で、タイトルとしても収まりが良いのですが、調べてみるとこれという日本語訳がなく、それぞれ苦心して訳されていることがわかりました。さらに「ask」も意外と難しいのです。というわけで、講演内容を踏まえて、担当者間でいくつかの案を出しあい、「このくらいかなぁ」というところで落ち着かせることにしました。

また、口調を訳に反映させるのにも工夫が必要でした。堅苦しい話し方を避けるのはもちろんですが、あまりに崩しすぎたり、ステレオタイプな「おねえちゃん口調」にしたりするのも相応しくありません。彼女の雰囲気のすべてを日本語に載せることは無理にせよ、とんがった感じ、かわいらしさ、繊細さ、賢さが少しでも表せていれば幸いです。



英語学習のヒント


英語自体は複雑ではなく、短い文が重ねてある効果もあるので、たとえば英語字幕をオンにして視聴するとさほど難しくないことがわかるでしょう。内容理解の面では、指示語や代名詞が何を指しているのか捉えにくいところがあります。日本語字幕ではその点についてできるだけ補足していますので、参考にしてください。

音声的には語尾の上がり具合が気になったり、やや早口と感じる人もいるかもしれませんが、少なくとも私は話し方として特別な印象は受けていません。この世代のアメリカ人と話すことに慣れている人なら、むしろ聞きやすいと感じるのではないでしょうか。

音楽用語に興味がある人は、英語トランスクリプトから、関連する語を拾って日本語でなんと言うか、考えてみてください。'a last-minute, spontaneous gig'や'crowdsurf'、'torrenting'のようなちょっと耳慣れない語も、立ち止まって考えてみるときっと意外な発見がありますよ。


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アマンダ・パーマー 「“お願い” するということ」

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

音楽にお金を出させるのではなく、払いたい人が払えるようにしてあげればいいんだとアマンダ・パーマーは言います。「2メートル半の花嫁 (!)」として帽子にお金を集めていたストリート・パフォーマー時代で始まる情熱的な語りを通して、彼女はアーティストとファンの新しい関係を考察しています。

(2013/3/24 字幕公開)

#5. ジュリー・バースティン「創造力を育む4つの教訓」



翻訳ウラ話


陶芸、文学、映画、絵画、彫刻、写真と、芸術の範囲内で話題が次々に飛ぶので、語彙や訳語、人名の日本語(カタカナ)表記の確認に追われました。一部、最後まで事実確認がとれなかった箇所がありましたが、講演者の意図するエンターテイメント性を重視してそのまま残しました。芸術に造詣の深い話者の、自らの感動を共有したいという想いを載せた口調を、できるだけ日本語にも反映するよう心がけました。



英語学習のヒント


講演者はラジオ・パーソナリティでインタビュアーというだけあって、これぞ「聴かせる英語」という雰囲気です。発音は明瞭、速度もほどよく、抑揚がしっかりめについているので、聞き取りやすいでしょう。講演の構成としても、具体的なエピソードで聴衆を惹きつけ、情感あふれる描写で聞いている人の頭の中に風景や色、におい、質感などを想像させるテクニックはさすがです。日本語、英語にかかわらず、人前で話す機会がある人にとっては参考になるでしょう。

英語そのものは難解ではありませんが、芸術、歴史、地理などの背景知識がないとちょっと筋を見失ってしまうところがあるかもしれません。 Transcriptをさらっと読んだだけだと、わかったようなわからないような感じになりそうです。わからなくなったらパラグラフの最初に戻り、1文ずつ丁寧に読みなおすようにしてみましょう。さらっと読んだときには見逃していた発見があるかもしれませんよ。


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ジュリー・バースティン「創造力を育む4つの教訓」

Japanese translation by Hitomi Takimizu, reviewed by Emi Kamiya

ラジオ司会者のジュリー・バースティンはクリエイティブな仕事をする人々と対談しています。課題や自己不信、喪失に直面しながらも、そこから創造力を働かせた人たちが伝える4つの人生訓を紹介します。映画監督ミーラー・ナーイル、作家リチャード・フォード、彫刻家リチャード・セラ、写真家ジョエル・マイエロヴィッツの話を聞いてみましょう。

(2013/3/11 字幕公開)

#4. ピーター・サウル:死に方を話し合おう



翻訳ウラ話


1文が長いことを除けば、構文として複雑でもなく、わかりやすい内容で訳しやすく、比較的短時間のうちに仕上がりました。数ヶ所で固有名詞が使われていますが、会場の文化内では共有されていて効果的な表現が、日本語字幕では再現しにくいため、カテゴリーを上げて一般名詞で対応するなどの工夫をしています。



英語学習のヒント


教養の高いオーストラリア英語話者の良い例です。耳で聞いた後、英語字幕を見て確認すると「意外と難しくなかった」と思われるのではないでしょうか。「やっぱり自分のリスニング力が足りないんだ…」と落ち込まないでくださいね。それはあなたがオーストラリア人のアクセントに慣れていないせいかもしれませんし、講演者の口調がソフトで淡々としており、普段リスニング教材などで聞き慣れているタイプの英語と比べると、抑揚が少ないせいかもしれません。

深刻な内容を丁寧に伝えながら、話し方に講演者の優しさやユーモアのセンスがにじみ出ていて、好感が持てます。聴衆が聞き入っているタイミングで"Enjoying it so far?"などとジョークを挟めるのも、話者に自分を客観視する余裕がある証拠です。日常的に英語を使う学習者は、いつも明るく楽しい話ばかりをしていられるわけではありませんから、いわゆる“語学の教材”から離れて、こうした話し方に触れておくことも、ときには必要かもしれません。


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ピーター・サウル:死に方を話し合おう

Japanese translation by Kyoko Florendo, reviewed by Emi Kamiya

「死ぬこと自体は変えられないが、『死を占拠』することはできる」というのはピーター・サウル博士の言葉です。終末期医療について希望を明確にすることを勧め、そのきっかけとなる2つの問いかけを提案しています。(TEDxNewy にて収録)

(2013/3/1 字幕公開)

2016/08/17

#3. ジョルジェット・ムルヘア 「孤児院の悲劇」



翻訳ウラ話


私が翻訳に取り組むかどうかを決めるポイントは、「この講演・ビデオの内容を、日本語にして伝えたいと思うかどうか」です。はじめてこの講演を見たとき、日本で保育や幼児教育に携わる友人たちから聞いていた内容と重なる部分が多かったため、「ぜひ日本の視聴者に届けたい」と強く思いました。戦争や政治不安などと無縁でも、生みの親のもとで育てられていても、子どもたちの暮らしが「憂鬱になるほどよく似ている」ということがあり得ると知るのは、とても恐ろしいことですが、目を背けるべきではない現実です。



英語学習のヒント


聞き取りやすい発音、速度、アクセントのイギリス英語なので、リスニングや後について言う練習に使えそうです。アドリブではなく、原稿を用意してきちんと話しているので、かなり書き言葉に近い文や構成になっています。Transcript(参照)を使って、読みこんだり、訳したり、文法的に分解してみたりするのも良いでしょう。また、段落ごとに要約をしたり、段落同士のつながりに着目したりすると、ライティング(文章を書くこと)やディスコース(かたまりごとに文章の展開などを考えること)の面でも役に立ちそうです。

明るく楽しく、夢や希望にあふれ、カラフルでユーモアたっぷり…というのとは違い、テーマが重く、画に変化がないので、大人気になるタイプのTalkではありません。しかし、静かな雰囲気の中に力強さがあり、深刻な問題をわかりやすく伝え、大切なことを鋭く指摘する素晴らしい講演だと思います。KECでは真面目な内容をきちんとした英語で話し、自分の言葉に責任を持ち、自分の考えをより豊かに表現できるようになりたいと望む、成熟した学習者を特に応援しています。


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ジョルジェット・ムルヘア 「孤児院の悲劇」

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

孤児院は多大な費用がかかる上、子どもの心と体に取り返しのつかないダメージを与える可能性があります。にもかかわらず、なぜこれほど多く存在するのでしょうか?ジョルジェット・ムルヘアは孤児院での悲劇を語ることを通して、支援が必要な子どもたちを別の方法で救い、孤児院に頼ることをやめるよう強く訴えます。

(2013/2/5 字幕公開)

2016/08/15

#2. エイミー・カディ 「ボディランゲージが人を作る」



翻訳ウラ話


私がTED字幕翻訳チームに入るきっかけとなった講演です。いつどこでこの講演を見たのかは覚えていませんが、当時、私自身がアメリカの大学院で日々感じていたことがそのまま講演者の口から放たれていて、「私だけじゃなかったんだ」と驚くと同時に、「他にも同じような人がいるかもしれない」と考え、ぜひこれを日本語に訳して広く皆さんに伝えたいと思ったのでした。その日のうちに翻訳チームに応募し、加入してさっそくこのタスクを探しましたが見つからず、数日後にレビュータスクが現れたので急いで取った記憶があります。のちに再生回数歴代2位(参照)の大人気になるとも知らず。いま思うと、若気の至り、新人ならではの大胆な行動で恥ずかしいですが、良い思い出です。



英語学習のヒント


発音が明瞭で難解な語は少なく、文もわかりやすいので、学習用の教材に適しています。講演というより、普段づかいの話し言葉に近いので、繰り返し聞いたり、後について言ってみる練習をしてみるのも良いかもしれません。速度は、飛び抜けて早口というわけではありませんが、学習者が真似するにはちょっと厳しいでしょう。TED関連のアプリには再生速度を変えたり、10秒単位で戻したりする機能がついているものもあるようです。活用してください。


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エイミー・カディ 「ボディランゲージが人を作る」

Japanese translation by Yasushi Aoki, reviewed by Emi Kamiya

私たちのするボディランゲージは、自分に対する他の人の見方に影響しますが、自分自身の見方にも影響します。社会心理学者のエイミー・カディは、自信のないときでも自信に溢れる「力のポーズ」を取ることで、脳内のテストステロンやコルチゾールのレベルが変化し、成功できる見込みも変わるのだと言います。

(2012/10/24 字幕公開)