2016/10/14

#33. ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ: 富を贈ることが最高の喜び



翻訳ウラ話


あまり積極的に手を出すタイプの作品ではありませんが、某テレビ番組のために急いで字幕を公開する必要があるとのことでお手伝いしました。自分の興味や好みで作品を選んでいるとどうしても食わず嫌いになってしまいがちですが、翻訳チームの一員として貢献するという視点があると、個人的な理由では出会うことのないTalkと関わりを持つことができます。訳にあたり関連記事やゲイツ夫妻の他の講演を聞く機会も得られ、良い勉強になりました。



英語学習のヒント


TEDの中にたまにあるインタビュー形式です。講演と話し方が異なるのは当然ですが、オーディエンスを意識したやりとりという意味で普通の会話とも違います。どこがどのように違うか考えながら聞いてみましょう。また、3人の話し方の違いにも注目してみましょう。

台本のない会話なので、文が途切れたり、言い直したりしているところがありますし、内容も少しわかりにくい部分がありますので、英語の学習には向かないだろうと思います。語彙は専門用語を含め、ところどころに聞き慣れない語が見つかるでしょう。普段触れている英語によっては「普通の会話にしては堅苦しい」と感じる学習者もいるかもしれません。確かに公の場でのインタビューなのでヨソイキなところがまったくないとは言えませんが、知的レベルの高い大人同士の日常会話としては決して特別なタイプのものではありません。会食やパーティーなど、ざっくばらんな雰囲気の中でも洗練された英語を使う必要のある学習者にはとっては、参考になるところがあるでしょう。

11:45あたりから、自然な会話らしいおもしろさが生じています。字幕では字数制限の都合もあり、残念ながら補足ができていませんので、それを逆手に取って、行間を読む練習問題にしてしまいましょう。ビルが何を言っているのか、メリンダがそれをどう解釈し、どういう食い違いが起きているか、考えてみてください。こういうアクシデントから話者の人物像が見えてくるようになると、言語学習はグッとリアルで深みのあるものになってきます。


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ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ: 富を贈ることが最高の喜び

Japanese translation by Mari Arimitsu, reviewed by Emi Kamiya

1993年、婚約中のビルとメリンダ・ゲイツはザンジバルの海岸を歩きながら、マイクロソフト社から得た富を社会に確実に還元する方法について大胆な決断をしました。クリス・アンダーソンを交えたトークで、ゲイツ夫妻が自身のビル&メリンダ・ゲイツ財団にまつわる活動、結婚生活、子供たち、失敗について、そして富のほとんどを贈ることにどれほど満足しているかを語ります。

(2014/8/2 字幕公開)

2016/10/10

#92. ジュリー・リスコット=ヘイムス: 我が子を成功させる、やりすぎない子育て



翻訳ウラ話


聴衆の心をわしづかみにするパワフルな講演です。翻訳が終わった後で、講演者には弁護士の経験と詩の心得があることを知り(参照)、大いに納得しました。歯切れの良さ、テンポの良さ、喩えのわかりやすさ、言葉選びのセンス、盛り上げ方は見事ですね。

子育てや大学受験など、話題に馴染みがあるせいか、私の耳には、講演者の声や口調で日本語が聞こえてくるという“ご本人吹き替え現象”が起きていました。というわけで、訳すというより、聞こえるままに書き取るという感覚で、あっという間に字幕が出来上がりました。



英語学習のヒント


発音が明瞭で、話題も身近なものなので、学習に使いやすいと思います。音声面では、韻を踏んでいる部分など、英語のリズムや美しさを味わってください。口調やスピーチのスタイルという面では、学習者が真似するにはハードルが高いのと、重ね塗りするような技は言い回しとしてくどくなってしまう恐れがあるので注意してください。

語彙はところどころに見慣れない語やイディオムがあるのではないでしょうか。前後に似たような表現があるのでそれに助けられ、だいたいわかる場合が多いかもしれませんが、英語学習を目的とする人は、そういう語ほどあえてきちんと辞書を引いて意味を確かめるようにしましょう。2:22あたりで出てくる「コンシェルジュ」などの語は、日本語で通用しているぶん、かえって英語の発音が定着しにくいかもしれません。咄嗟に言われたり、言ったりする場面で対応できるよう、講演者のあとについて発音するなどして練習しておくといいですよ。

ま、"concierge"はアメリカ人にとっても外来語なので難しいんですけどね(参照)。


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ジュリー・リスコット=ヘイムス: 我が子を成功させる、やりすぎない子育て

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Saeko Hashimoto

過度な期待をかけまくり、子どものやることなすことを細かく管理する親は、子どもの助けになっていません。少なくともジュリー・リスコット=ヘイムスにはそう見えています。かつてスタンフォード大学で新入生担当学生部長を務めた彼女が、情熱とひねりの利いたユーモアをこめて主張します。親は子どもの成功を成績やテストの点数で決めるのをやめ、昔ながらの考えに立ち返って「無償の愛」を与えることに集中すべきなのです。

(2016/10/9 字幕公開)

2016/10/08

#32. ルース・チャン: 難しい選択の仕方



翻訳ウラ話


英語学習の方法を中心に、日々さまざまなご相談を受ける中で、「選択する」ということを避ける動きをよく見かけます。変わりたいけれど変われない、何か思いついても最初の一歩が踏み出せない人には、自分で選択をする代わりに、お金がない、時間がない…などの外的な理由を並べて、「だからできない」という結論で落ち着こうとする傾向があります。でも実は「選択しない」というのも選択のうちなんですよね。コーチの仕事は、選択の難しさや選択する辛さに共感しながら、「難しくて辛いけど、逃げないで選択しよう」という気持ちになれるよう、後押しすることなのかもしれません。日本語字幕によってより多くの人にこの講演を見ていただけるといいなと思って訳しました。



英語学習のヒント


発音は明瞭、スピードはゆっくり、文は短くてシンプルなので、学習用としていろいろな使い道があると思います。語彙もやさしく、絵やジェスチャーの助けもあるので、字幕オフで、メモを取りながら視聴してみてください。メモは英語でも日本語でも、記号や図でも構いません。仮説を立てては論破する、というのが繰り返されていますので、その1つ1つについて、「仮説」と「ダメな理由」をなるべく詳しく書き取ります。追いつけなくなったら多少戻したり止めたりしても良いですが、できるだけ止めずに進みましょう。見終わったらメモをもとに講演内容を再構築し、英語で書き出します。書き終わったらトランスクリプトと見比べて、文法や表現を含めて自分で添削してみましょう。


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ルース・チャン: 難しい選択の仕方

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Tadashi Koyama

このトークであなたの人生は本当に変わるかもしれません。どちらの職業を選ぼうか?別れるべきか、結婚するべきか?どこに住もう?こうした重要な決断は難しく、なかなか決められないものです。しかしそれは考え方が間違っているからなのだと、哲学者のルース・チャンは言います。彼女が提案するのは、本当の自分を確立するための、説得力のある新たな枠組みです。

(2014/7/30 字幕公開)

2016/10/05

#91. 精神的に強くなる秘訣 | エイミー・モーリン | TEDxOcala



翻訳ウラ話


「聞いてわかる」のと「日本語に訳せる」というのは違うものだなぁと改めて感じました。たとえば2:23の"I shouldn't have to deal with it." 日本語ではなんて言うんだろうとあれこれ考えを巡らせました。何度も再生して口調を確かめ、"I shouldn't have to ~"を含む文を検索して、文脈からそこに込められた感情を読み取ろうとしたのですが、結局これだという訳には出会えませんでした。どことなく「他の人ならいい」「自分以外の人にしてくれ」というニュアンスがありそうだと判断して、担当者間で「私じゃなくてもいいはず」「どうしてこんなことが」「こんな目に遭うなんて」などの候補を出しあいました。



英語学習のヒント


"cost" "deserve" "afford" など、日本語にしにくい動詞が次々と出てきます。こういう語は、受験テクニックによくある単語帳的な暗記ではなかなか使いこなすところまで到達しません。ターゲットとなる語が使われている文をなるべくたくさん集め、背景なども含めて目を通し、感覚的にじんわり吸収していく必要があります。手順としては、まず辞書を引いて用例を上から下まで読みます。できるだけ多くの辞書を当たってください。次にこの講演の例から、「どんな心情、どんな場面で使われ、どういうことを指しているか」ということを考えます。続いて、ターゲットの語を自分の状況にあてはめて文を作ります。最後に、英語がわかる人に前後関係を含めて説明し、自分の作った文が自分の言いたいことと合っているかチェックします。「いつかこういう場面になったら使おう」と準備しておくと、意外と“その時”はすぐやってきて、英語が咄嗟に出るという体験ができますよ。

また、この講演は時間感覚の学習にも使えます。学習段階に応じていろいろな方法が考えられますが、初学者はまず「過去」を表現する方法を拾ってきちんと押さえましょう。次の段階にある学習者は、過去をベースに、いわゆる「大過去」の表現を確認してください。さらに余裕のある学習者は、「現在形」が使われている部分に注目し、その効果や奥深さを味わってみましょう。TEDxの講演にはあいにく公式のトランスクリプトがありませんが、ネット上には使えそうな資料がありますので参考にしてください。


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精神的に強くなる秘訣 | エイミー・モーリン | TEDxOcala

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Reiko Bovee

精神的に強くなる能力は誰にでもありますが、ほとんどの人はその方法を知りません。どんな状況でも、考えを正し、感情をコントロールし、生産的な行動をとる方法を身につけるための練習をするという選択は可能なのです。精神的強さの基本的な3つの要素について、臨床ソーシャルワーカーと心理療法士の資格を持つエイミー・モーリンが語ります。

(2016/10/5 字幕公開)

2016/10/04

#90. ナディア・ロペス: 学校を開く理由、それは刑務所を閉鎖するため



翻訳ウラ話


都市部の教育問題について、私自身は直接携わってはいませんが、ニューヨークで教育に関わっていれば自然に見聞きする機会があるものです。また、周りに『Humans of New York』を読んでいる人もたくさんいます。というわけでこの話題には馴染みがありました。講演の中で紹介されている少年の記事はこちらです。

ひとくちに教育といっても、このタイプの公教育と、日本人向けの英語教育のような教育にはさまざまな違いがあります。私は大学院で言語学系ではなく教育を学ぶ道に進んだので、国・地域・個人などの規模、公的・民間の別、政策・開発・管理・教職などの立場、幼児教育から高等教育、生涯教育といった場面、科学・人文・芸術などの教科、マイノリティなど社会的側面、オンライン・オフライン・ハイブリッドなどといった、それぞれに異なる視点から教育を推進しようとする仲間たちと出会うことができました。この講演を聞きながら、何人かの顔が思い浮かびました。



英語学習のヒント


講演は約7分と短く、ゆっくり丁寧な話し方で、語彙も易しいので、字幕なしで内容を理解できるか試すのに良いのではないでしょうか。ところどころにAAVE(黒人英語)の特徴的な発音が見受けられるので、慣れていないと聞き取りにくいと感じるかもしれません。その部分は英語字幕やインタラクティブ・トランスクリプトを使って確認してみてください。

やや曖昧なところや、背景を知らないと理解しにくい部分があるので、詳しく読み込むなど分析的な作業には向かないでしょう。学習としては、気になった語を辞書で確認し、「聞いてわかる」というところまでに留めておく程度で良いと思います。


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ナディア・ロペス: 学校を開く理由、それは刑務所を閉鎖するため

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

私たちにとって子供たちは未来であり、子供自身がそれを信じることはとても重要です。ナディア・ロペスがニューヨーク市で最も行政サービスが行き届かず、暴力がはびこるブルックリンのブラウンズビル地区に学問のオアシスを開いた理由はそこにあります。彼女は子供たち全員の素晴らしい才能と能力を信じているのです。モット・ホール・ブリッジズ・アカデミー初代校長の(そしてブログ『Humans of New York』で有名になった)彼女は、私たちに元気を与えてくれる短い話を通して、「学徒たち」が自分と家族の明るい未来を描くために、どのように手を差し伸べているかを語ります。

(2016/10/4 字幕公開)