2017/01/30

#96. アダム・ガリンスキー: はっきり主張できるようになるには




翻訳ウラ話


私はコーチで研究者で学生でもあるので、日々、交渉や提案や相談をしたり、されたりすることが多いです。状況や相手によって自分の発言の自由度が変化することや、そこに力関係が働いていることを感じていたので、この講演を最初に聞いたときには内容がすんなり理解できたように思いました。ところが、翻訳作業に入り一言一句を細かく見ていくと、すっきりしない箇所がちらほら出てきました。感覚的な言葉遣いは魅力的なのですが、残念ながら翻訳する場合、よくわからないまま聞き流すわけにはいきません。その意味では、訳すという行為は無粋なものですね。担当者間で解釈をすり合わせたり、講演者本人に確認をとったりしました。



英語学習のヒント


上述のとおり、この講演者の英語はサラッと聞いたときと、細部までじっくり読み込んだときとで印象が変わります。違いが感じられるかどうか試してみてください。まずは字幕オフで視聴し、その後英語トランスクリプトを読みます。わかったようなわからないような箇所があったら、すぐに訳を見るのではなく、トランスクリプトの該当箇所をクリックして音声を聞いてみてください。「読んでもわからなかったけど、聞いたらなんとなくわかった」という意外な体験ができるかもしれませんよ。自分なりの解釈が合っていたかどうか、最後に日本語訳で確かめることをお忘れなく。

語彙は比較的平易で、構文も全体的にシンプルです。知らない語があったらきちんと辞書で調べ、使えるようにしておいてください。イディオム"step on someone's toes"や、"speak up (for oneself)"、"advocate for"、"put up"、"turn out"、"lean in"などの句動詞の意味と使われ方をしっかり押さえておきましょう。また、"they grant me..."、"it allows us..."のような表現は、多くの学習者にとって、知っていてもなかなか咄嗟には使えないものです。この機会に使い方を盗んでおきましょう。


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アダム・ガリンスキー: はっきり主張できるようになるには

Japanese translation by Reiko Bovee, reviewed by Emi Kamiya

はっきり考えを述べることは、そうすべき時でも難しいものです。社会心理学者アダム・ガリンスキーの賢明な助言から、意見をはっきりと述べ、難しい状況もくぐり抜け、自分自身の力を強化する方法を学びましょう。

(2017/1/29 字幕公開)

2016/11/25

#95. ウィット(知力)とグリット(やり抜く力)を超えて:成功の秘訣を再考する | ハワード・ガードナー | TEDxBeaconStreet




翻訳ウラ話


アメリカで教育を学んだ人なら一度は通るガードナーのMI理論。ガードナー自身が自らの言葉で語る動画はネット上にいくつもある中(参照)、その1つに日本語字幕を付けることができるというのは貴重で光栄な機会でした。この翻訳作業のために資料を探す過程で気づいたのですが、MI理論は日本語の資料だけを見ていると支持が圧倒的多数、疑問の余地なしという印象です。欧米では批判もたくさんあり、教育や脳科学などの分野でさまざまな議論を呼んでいますが、もしその部分が日本の人々に届いていないのだとすると重大な問題だなと思いました。脅すつもりはありませんが、「英語ができると取り込める情報の量が増え、理解の幅が広がる」というのは事実です。

日本語の訳本をはじめ、MI理論関連には定訳のある用語が多いので、検索で複数のソースを確認しながら翻訳を進めました。



英語学習のヒント


理論に馴染みがない人にとっては内容がわかりにくいかもしれません。「自分の英語はまだまだだ…」なんて落ち込んだりしないでくださいね。英語学習に向いているビデオは他にいくらでもあります。

歯ごたえのある学習を望む人は、大学で講義を受けるつもりで、字幕をオフにしてメモをとりながら聞いてみましょう。聞き取りという点では、前半の理論の概要は比較的やさしいですが、後半の新しい活動の説明に入ると難度が上がります。集中力を保ち、なるべく止めたり戻したりしないで要点を書き取りましょう。終わったら自分のメモを元に講演を再構築し、最後に英語字幕や日本語字幕で内容を確認します。


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ウィット(知力)とグリット(やり抜く力)を超えて:成功の秘訣を再考する | ハワード・ガードナー | TEDxBeaconStreet

Japanese translation by Eriko T., reviewed by Emi Kamiya

長い目で見たときに真に成功する為には何が必要なのでしょうか?もしあなたの考える答えが「頭が良いこと」と「努力をすること」なら、この講演を聴いてみてください。

(2016/11/25 字幕公開)

2016/11/10

#38. カルマパ猊下: 心のテクノロジー



翻訳ウラ話


こちらも様々な事情から長い間字幕が未完成になっていたものでした。チベット語を英語に通訳したものに日本語字幕をつけるという珍しい体験ができました。



英語学習のヒント


英語の部分は通訳者が一語一語を訳しながら発しているものですので、速度はゆっくりで間もたっぷり、文としても複雑ではありません。宗教家の言葉ということもあり、語や文の構成もシンプルでわかりやすいでしょう。とはいえ、あくまでも内容を伝えるための英語ですので、あえてこれを英語学習に使うことはないでしょう。通訳の言葉は話し言葉とも書き言葉とも違う特殊なものですが、ひょっとしたら日本の教科書に出てくるような“英語”にはこれと近いところがあるかもしれませんね。

講演者には「His Holiness」という敬称が付いており、「猊下」と訳しています。このような敬称の中で日本人にとって身近なのは「His/Her Majesty」でしょうか。その他にも英語の敬称はいろいろありますので、興味がある人はこちらなどで確認してください。


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カルマパ猊下: 心のテクノロジー

Japanese translation by Mariko Imada, reviewed by Emi Kamiya

カルマパ猊下がどのようにして見出され、チベット仏教で尊敬される人物になったかを話します。猊下はテクノロジーとデザインだけではなく、私たちの心のテクノロジーとデザインにも取り組むよう求めています。通訳はタイラー・デュワーです。

(2014/8/12 字幕公開)

2016/11/09

#94. 義務でする交流なんて要らない | キャロライン・ マグロー | TEDxBirminghamSalon



翻訳ウラ話


コーチングセッションの中で「忙しくて学習時間が取れない」「どこから手を付ければいいかわからない」というようなご相談を紐解いていくと、それぞれの「線引き」や「優先順位」の問題につながってくることがあります。限られた時間やエネルギーを、どこにどれだけ使うかは本人次第なのですが、それに気づくのは簡単ではないのかもしれません。こうした講演が、日常生活のちょっとした習慣を変えていくきっかけになればいいなと思います。



英語学習のヒント


この講演で出てくる「owe」や「miss」は、英語としては基本的な部類で非常によく使われる動詞ですが、日本語に訳そうとすると意味がとりにくいものです。そのためか、日本人学習者が発する英語の中ではあまり見かけません。読む・聞くというreceptiveな場面では「なんとなくわかるけど、よくわからない」、書く・話すというproductiveな場面では「使えない」「使うのに勇気が要る」となっているのかもしれませんね。「owe」「miss」の他に、英語では頻出でも日本人にとって使いにくい動詞としてパッと思いつくのは「deserve」「matter」「afford」などでしょうか。

このような動詞をきちんと理解するには、日本語訳と英語の両面から、できるだけ多くの例文に当たることが大切です。まずは辞書を引くことですが、最初に出てきた意味をチラッと見ただけでわかったつもりになってしまうと、このタイプの語は習得できません。語義、例文を丁寧に読み、その語が持つ“守備範囲”をつかみましょう。次に、ターゲットの語が使われている前後の文脈を探します。ネット検索が便利ですが、ターゲットの語単体で探してもうまく行きませんし、「+sentence」のようなキーワードでは文レベルの例しか見つかりません。そこで、辞書で得た情報から、一緒に使われている可能性の高い語を見繕ってキーワードにします。たとえば「owe」なら「+responsibility」「+relation」「+favor」などと合わせて探す、という具合です。どんな語と組み合わせるとよいか考えることで、言語センスも磨かれていきます。


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義務でする交流なんて要らない | キャロライン・ マグロー | TEDxBirminghamSalon

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Riaki Poništ

この短い講演では、ライターのキャロライン・ マグローが、自身が執筆し、大きな反響を得て広まったブログ記事にまつわる問題を語ります。過度に他人とつながりやすい現代社会で、自らのエネルギーを使い果たすことなく、なおも他者に与える方法について、マグローのアイデアを聞いてみましょう。

(2016/11/8 字幕公開)

2016/11/06

#37. 幸福は心の中に|ゲン・ケルサン・ニエマ|TED×Greenville



翻訳ウラ話


15年ほど前、私は日本からアメリカへ禅を紹介しに来られた老師に教わってはじめて坐禅を知りました。その後、日本帰国中に近所のお寺で何度か体験し、そこで教わったことやいただいたハンドブックを使って、今でも気が向いたときに坐るようにしています。一方、アメリカでは西海岸のビジネス界からMeditation(瞑想)が広まって、東海岸でもすっかり定着しましたが、意外なことにそちらは未体験なのです。というわけで、どんなものか覗くついでに訳してみたのがこの作品です。



英語学習のヒント


これもまた、英語学習にと考えること自体にやや抵抗がありますが、あえて考えるなら、非常にゆっくり、はっきり、わかりやすく話していますので学習に使いやすいと言えるかもしれません。中級程度でも日本語オフ、字幕オフで理解できる内容です。気に入った文があったら、英語字幕を見ながら音声のあとについて言い、映像を止めて滑らかに言えるまで繰り返し言う、というようにしておくと、ふとしたときに口をついて出てくるようになります。発音を改善したい人やスピーキングを伸ばしたい人は、いわゆるシャドウイングのようにつぶやくのではなく、唇の形や舌の位置を意識しながらしっかり声に出すようにしましょう。録音をして、自分で聞いてみるのも効果的です。


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幸福は心の中に|ゲン・ケルサン・ニエマ|TED×Greenville

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Shoko Takaki

仏教の尼僧、ゲン・ケルサン・ニエマは「幸福という贈り物は私たちの心の中にこそある」と言います。自分の幸福を他人や周囲の状況に任せてはいけません。幸福になりたいのなら「幸福を他人に委ねるのは止め」、心の中から湧き上がる平穏な気持ちを育んでいかなければならないのです。

(2014/8/11 字幕公開)

#36. ナオミ・オレスケス: 科学者を信頼すべき理由



翻訳ウラ話


本来は科学の外にいる人向けに、科学が行っていることを解説する目的のレクチャーなのですが、立場上、いつの間にか「なぜ科学をやるのか」という聞き方をしていることに気づきました。研究者はときに自分がやっていることが何の役に立つのか、見失うものです。つい、PhD学生の間でよく知られるこちらの図解を思い出してしまいました。

訳については判断に迷うような部分はありませんでしたが、固有名詞や訳語、定訳の確認に手間がかかりました。これに限らず、分野を越えていつも思うことですが、同じモノや現象を指す用語でも、英語では一般的な語の組み合わせなどで比較的素人の想像が届きやすいのに対し、日本語では日常語と明確に隔てられていて、孤高で有標、使われ方が限定的ですね。たとえば「inductive/deductive」にしても、「帰納/演繹」よりずっと身近です。「専門用語然」としているところに、日本語の専門用語のありがたみがあるんでしょうか。



英語学習のヒント


英語そのものは複雑ではなく、口調など音声的にも学習に向かないわけではありませんが、とにかく専門用語や固有名詞が多い中で話題が次々に移っていくので、英語学習という面ではなにもこれを使わなくてもいいかな、というところです。日本語字幕をオンにして、全体の意味をつかんだうえで、気になる箇所があればそこに戻って、英語字幕やトランスクリプトでチェックする程度に留めておきましょう。スピーチのスタイルとしては、話の展開や例の出し方が上手いので、たとえばガイドや広報のように、なんらかの事柄について広く浅く説明する予定がある人にとっては参考になるかもしれません。


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ナオミ・オレスケス: 科学者を信頼すべき理由

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Misaki Sato

世界の重大な問題の多くは科学者の見解を必要としますが、なぜ私たちは科学者の言うことを信じるべきなのでしょうか。科学史の研究者であるナオミ・オレスケスは、私たちと信じることとの関係を深く考察し、科学研究に対する姿勢にまつわる3つの問題点を導き出します。さらに、私たちが科学を信頼すべき理由として、独自の根拠を示してくれます。

(2014/8/11 字幕公開)