2016/08/27

#12. スガタ・ミトラ「クラウド上に学校を」



翻訳ウラ話


勝手に“3部作”と呼んでいた「教育の未来」シリーズの第3弾。この年のTED Prizeを受賞した講演です。「教える」よりも「自然に学びたくなるような環境を作る」という考えが私の好みに合っています。

第1弾 第2弾

英語学習のヒント


講演者はインド出身で、イングランドの大学教授です。話し方はゆっくりですが、独特のアクセントに慣れていないと聞き取りにくいと感じるかもしれません。このタイプの英語に慣れたい学習者は、まずは字幕なしで聞いてみましょう。次に、英語字幕をオンにして音声を聞きながら文字を目で追います。英語そのものは難しくなく、むしろ易しいことに気づくでしょう。最後に字幕をオフにして、もう一度ビデオを見てみます。最初より聞き取りやすくなっているのではないでしょうか。最初は聞こえなかったのに聞こえるようになった部分をメモしておくと、自分の聞き取りにくいパターンが見えてくるかもしれません。


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スガタ・ミトラ「クラウド上に学校を」

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Tadashi Koyama

2013年のTED賞受賞にあたり、スガタ・ミトラは大胆にもこう言いました。「“クラウド上の学校”という学習実験室をインドに作りたいと思っています。子どもたち同士が協力して自由に調査したり学習したりできる場所です。学習に必要な物質的、人的支援はクラウド上にあるものを利用します」。自己学習環境 SOLE について、彼の刺激的なビジョンが語られます。受賞の内容は tedprize.org をご覧ください。

(2013/5/27 字幕公開)

#11. リタ・ピアソン「すべての子どもに強い味方を」



翻訳ウラ話


独特のテンポとユーモアで会場の人々の心をグッとつかみ、教育者としてたっぷりの愛情をバンバン投げつけてサッと去っていく姿がカッコいいと思いました。講演の勢いそのままに、訳はあっという間に出来上がりました。日本語字幕が完成し、1ヶ月あまりして飛び込んできた突然の訃報(参照)。力強い声が耳に残っていただけに、とてもショックだったのを覚えています。



英語学習のヒント


African American Vernacular English (AAVE、いわゆる黒人英語)に憧れる学習者もいますが、特別な事情がない限り、日本人学習者がこのタイプの英語をターゲットに学習を進めることはとても少ないでしょう。発音やイントネーションにはっきりした特徴があります。AAVEは文法にも特徴がありますが、この講演者は教育者ということもあり、文法としては標準的と考えて差し支えありません。

話し方を真似することはなくても、特にアメリカではこのタイプの英語に出会うことも普通にありますから、その予定がある学習者は慣れておくとよいでしょう。ビデオを再生しながらインタラクティブ・トランスクリプトを使うと、文ごとに発音が何度でも確認できて便利ですよ。イディオムなど、意味のわからない表現があったらまずは辞書を引き、見つからなければ日本語字幕を利用してください。


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リタ・ピアソン「すべての子どもに強い味方を」

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by nobuyuki umeji

40年の教師経験の中で、リタ・ピアソンにこう言った同僚がいました。「子どもを好きになる手当ては貰っていない」。それに対し彼女は「子どもは嫌いな人から学ばない」と反論します。教育者に向けて、生徒たちを信じ、生徒たちと実際に人間同士のつながりを持つ大切さを語った熱いメッセージです。

(2013/5/11 字幕公開)

#10. キース・チェン:言語が貯蓄能力に与える影響



翻訳ウラ話


言語と貯蓄率を結びつけるという発想がおもしろいと思い、翻訳してみました。英語に比べ、日本語では一般的な語と専門用語をくっきり分ける傾向があるので、「経済用語かな?」と思われる語は友人の日本人経済学者に確認しながら訳を完成させました。この作品に限らず、私が「専門用語かも」と思って専門家に尋ねると、一般的な語と同じ使われ方で、返ってきた回答は“普通”の訳…ということがよくあります。訳語の確認は辞書やネット検索などでおこないますが、“普通”の訳は専門用語ほど簡単に調べがつかないので、慎重にならざるを得ないのです。英語から日本語へ用語を取り入れる方法には、「特別な訳語を作って専門用語化する」「一般的な訳を当てる」「カタカナにする」などの選択がありますが、そのパターンは分野ごとに偏りがあるような気がします。



英語学習のヒント


講演者は英語と中国語のバイリンガルで、経済学の若手プロフェッサーです。きびきびした口調、テンポが良くやや早口で、畳みかけるように進むプレゼンテーションは、ビジネス系の分野ではお馴染みの特徴ではないでしょうか。ビジネス系で大学院への留学などを目指す学習者は、字幕がなくても内容が理解できるよう、この講演をトレーニングに利用しましょう。一方、日本国内での趣味の英会話はもちろん、いわゆる語学留学程度を予定している学習者は、聞き取れなくても気にしないことです。無理せず、日本語字幕で内容をつかんでください。

TEDのページに寄せられている、この講演に対しての視聴者からのたくさんのコメントは、批判的思考の練習に使えそうです。言語、統計の面で、それぞれどんなツッコミがなされているかまとめてみましょう。グループでの協働学習が可能なら、投稿されているコメントの妥当性を話しあったり、自分たちでコメントを書いて評価しあったりするのも良いでしょう。


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キース・チェン:言語が貯蓄能力に与える影響

Japanese translation by Tomomi Anzai, reviewed by Emi Kamiya

経済学者が言語学の分野から学べることとは?行動経済学者キース・チェンが自身の研究から見出した興味深いパターンを紹介します。未来の概念のない言語("It will rain tomorrow" ではなく "It rain tomorrow" が許容される言語)と高い貯蓄率の間には強い相関関係があるのです。

(2013/5/9 字幕公開)

2016/08/26

#9. BLACK 「ヨーヨーの達人への道」



翻訳ウラ話


日本人の講演ということで、「こう言おうとしてるんだろうな」というのが痛いほど伝わってくるのですが、あまり補い過ぎないように気をつけて訳しました。字幕公開後、ご本人から「まさに言いたかったとおりに訳されていて、本当に嬉しい」というメッセージをいただいたときには、心底ホッとしました。



英語学習のヒント


英語の母語話者でも、ネイティブ並みの英語力をもつ人でも、TEDのメインステージに立つというのは大変なことです。TEDキュレーターのクリス・アンダーソンが最近、TEDトークの指針を紹介しましたが(参照)、もっとも重要なアイディアの伝達に加えて、「日本人でもこんな堂々としたスピーチができる」という姿が示されていることは、学習者の励みになるのではないでしょうか。

英語はきちんと用意されており、何度も練習したであろうことが伝わってきます。自信がないと、どうしても小声になったりごまかしたりしたくなりますが、実はそのせいでより伝わりにくくなり、また自信を失うという悪循環を招きます。聞き手に敬意を払い、相手の目を見て、文末まではっきり言う。そういう誠意が感じられると、聴衆はちゃんと応えてくれるものです。

同じ日本人学習者として、日本人の話す英語を聞く際の姿勢にも注意しましょう。アラ探しより良いところを見つけ、学ぶべきところを盗んだ方が、上達に近づきますよ。


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BLACK 「ヨーヨーの達人への道」

Japanese translation by Yasushi Aoki, reviewed by Emi Kamiya

ヨーヨーをただ回らせるだけでも四苦八苦していた日を覚えていますか? うまい人なら「犬の散歩」もできたかもしれませんね。でも、あなたはまだ本当のヨーヨーを知りません。日本から来たヨーヨー世界チャンピオンのBLACKが、人生の情熱を見出した心に響く話とともに、息をのむパフォーマンスをお目にかけます。これを見たら、引き出しの奥からまたヨーヨーを引っ張り出そうという気になるかもしれません。

(2013/4/25 字幕公開)

2016/08/25

#8. アンドレア・シュライヒャー 「データに基づく学校改革」



翻訳ウラ話


偶然同じ時期に私が携わることになった「教育の未来」がテーマの講演、第2弾です。講演者は日本でもよく知られる教育指標事業PISA (Programme for International Student Assessment)(参照)の責任者。ドイツ人が語る、教育統計の国際比較です。切り口はずいぶん違いますが、第1弾との共通点がかなりあります。



英語学習のヒント


ヨーロッパ人の英語に慣れていないと、聞き取りにくいと感じるかもしれません。アクセントや文末の処理の仕方が、日本のリスニング教材等で聞く英語とは違うからです。表情も豊かとは言いがたいので、ちょっと怖いと感じる人もいるでしょうか。文化の違いもありますが、私はこの講演者の口調や表情が、講演の内容や説明の仕方によく合っていて、説得力を増しているように思います。日本人向けのスピーチ練習はアメリカをお手本にしているものが多いですが、世界にはこういうやり方もあるということで、参考にしてください。

教育の研究や統計に馴染みがないと、語彙や内容理解の面でちょっと厳しいかもしれません。無理せず日本語字幕を利用して、内容がわかってから英語に移ることをお勧めします。

こうした統計報告は大きな関心を集める一方、どうしても物議を醸すものです。TEDのページには視聴者からたくさんのコメントが寄せられています。いくつか読んでから、自分だったらどんなコメントを残すか考え、1パラグラフ書いてみましょう。


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アンドレア・シュライヒャー 「データに基づく学校改革」

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

教育システムが機能する要因を捉える方法はあるでしょうか。アンドレア・シュライヒャーが紹介するのは、世界規模の学力テストPISAです。このテストでは各国の順位が示されるだけでなく、データをよりよい学校づくりのために活用することができるのです。自分が住む国や地域の順位を見ながら、優れた成績をあげる要因について学びましょう。

(2013/4/23 字幕公開)

#7. 「遊びから情熱、そして目的へ」 トニー・ワグナー (TEDxNYED)



翻訳ウラ話


教育の研究をする者として、私は日本を含む世界の国々の教育がどういう問題を抱え、どう改善し、どう報告されているかに大いに関心があります。当時、偶然にも「教育の未来」をテーマにした講演の翻訳が立て続けに私のところへ来たので、勝手に「3部作」と呼んでいました。これはその第1弾、アメリカ人がアメリカの教育の問題点を語る編です。



英語学習のヒント


さすが学校の先生という感じで、明瞭な発音、緩急や抑揚のついた聞き取りやすい英語です。話すスピードはやや速めですが、そのせいもあって話のテンポがよく、ユーモアを交えて聞き手を飽きさせません。文としても短めでシンプルな構成のものが多いので、理解しやすいでしょう。あいにくTEDxの講演には公式のトランスクリプトがついていませんが、ネット上を探すと見つかるかもしれませんので読んでみてください。また、この講演者が同じテーマを論じた本や記事は、リーディングや要約の練習に使えます。たとえばこちらの記事は特に有名なものですが、講演を聞いてから読むと内容がよくわかると思います。

一通り内容がつかめたら、英語字幕をオンにして、文字で確認してみましょう。語彙は全体的に平易ですが、ところどころ見慣れない語やイディオムが使われているのに気づくのではないでしょうか。さて、そこから? それがこの講演のテーマですよね。


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「遊びから情熱、そして目的へ」 トニー・ワグナー (TEDxNYED)

Japanese translation by Chieko Tamakawa, reviewed by Emi Kamiya

トニー・ワグナー氏は最近、ハーバード大学のテクノロジー&起業センターの初代革新教育フェローに就任しました。彼は国の内外を問わず学校や教育区、財団を対象に幅広く助言を与えています。

(2013/4/21 字幕公開)

2016/08/21

#6. アマンダ・パーマー 「“お願い” するということ」



翻訳ウラ話


なんといっても悩ましかったのはタイトルです。「The art of ~ing」というのは英語としては馴染みのある表現で、タイトルとしても収まりが良いのですが、調べてみるとこれという日本語訳がなく、それぞれ苦心して訳されていることがわかりました。さらに「ask」も意外と難しいのです。というわけで、講演内容を踏まえて、担当者間でいくつかの案を出しあい、「このくらいかなぁ」というところで落ち着かせることにしました。

また、口調を訳に反映させるのにも工夫が必要でした。堅苦しい話し方を避けるのはもちろんですが、あまりに崩しすぎたり、ステレオタイプな「おねえちゃん口調」にしたりするのも相応しくありません。彼女の雰囲気のすべてを日本語に載せることは無理にせよ、とんがった感じ、かわいらしさ、繊細さ、賢さが少しでも表せていれば幸いです。



英語学習のヒント


英語自体は複雑ではなく、短い文が重ねてある効果もあるので、たとえば英語字幕をオンにして視聴するとさほど難しくないことがわかるでしょう。内容理解の面では、指示語や代名詞が何を指しているのか捉えにくいところがあります。日本語字幕ではその点についてできるだけ補足していますので、参考にしてください。

音声的には語尾の上がり具合が気になったり、やや早口と感じる人もいるかもしれませんが、少なくとも私は話し方として特別な印象は受けていません。この世代のアメリカ人と話すことに慣れている人なら、むしろ聞きやすいと感じるのではないでしょうか。

音楽用語に興味がある人は、英語トランスクリプトから、関連する語を拾って日本語でなんと言うか、考えてみてください。'a last-minute, spontaneous gig'や'crowdsurf'、'torrenting'のようなちょっと耳慣れない語も、立ち止まって考えてみるときっと意外な発見がありますよ。


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アマンダ・パーマー 「“お願い” するということ」

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

音楽にお金を出させるのではなく、払いたい人が払えるようにしてあげればいいんだとアマンダ・パーマーは言います。「2メートル半の花嫁 (!)」として帽子にお金を集めていたストリート・パフォーマー時代で始まる情熱的な語りを通して、彼女はアーティストとファンの新しい関係を考察しています。

(2013/3/24 字幕公開)

#5. ジュリー・バースティン「創造力を育む4つの教訓」



翻訳ウラ話


陶芸、文学、映画、絵画、彫刻、写真と、芸術の範囲内で話題が次々に飛ぶので、語彙や訳語、人名の日本語(カタカナ)表記の確認に追われました。一部、最後まで事実確認がとれなかった箇所がありましたが、講演者の意図するエンターテイメント性を重視してそのまま残しました。芸術に造詣の深い話者の、自らの感動を共有したいという想いを載せた口調を、できるだけ日本語にも反映するよう心がけました。



英語学習のヒント


講演者はラジオ・パーソナリティでインタビュアーというだけあって、これぞ「聴かせる英語」という雰囲気です。発音は明瞭、速度もほどよく、抑揚がしっかりめについているので、聞き取りやすいでしょう。講演の構成としても、具体的なエピソードで聴衆を惹きつけ、情感あふれる描写で聞いている人の頭の中に風景や色、におい、質感などを想像させるテクニックはさすがです。日本語、英語にかかわらず、人前で話す機会がある人にとっては参考になるでしょう。

英語そのものは難解ではありませんが、芸術、歴史、地理などの背景知識がないとちょっと筋を見失ってしまうところがあるかもしれません。 Transcriptをさらっと読んだだけだと、わかったようなわからないような感じになりそうです。わからなくなったらパラグラフの最初に戻り、1文ずつ丁寧に読みなおすようにしてみましょう。さらっと読んだときには見逃していた発見があるかもしれませんよ。


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ジュリー・バースティン「創造力を育む4つの教訓」

Japanese translation by Hitomi Takimizu, reviewed by Emi Kamiya

ラジオ司会者のジュリー・バースティンはクリエイティブな仕事をする人々と対談しています。課題や自己不信、喪失に直面しながらも、そこから創造力を働かせた人たちが伝える4つの人生訓を紹介します。映画監督ミーラー・ナーイル、作家リチャード・フォード、彫刻家リチャード・セラ、写真家ジョエル・マイエロヴィッツの話を聞いてみましょう。

(2013/3/11 字幕公開)

#4. ピーター・サウル:死に方を話し合おう



翻訳ウラ話


1文が長いことを除けば、構文として複雑でもなく、わかりやすい内容で訳しやすく、比較的短時間のうちに仕上がりました。数ヶ所で固有名詞が使われていますが、会場の文化内では共有されていて効果的な表現が、日本語字幕では再現しにくいため、カテゴリーを上げて一般名詞で対応するなどの工夫をしています。



英語学習のヒント


教養の高いオーストラリア英語話者の良い例です。耳で聞いた後、英語字幕を見て確認すると「意外と難しくなかった」と思われるのではないでしょうか。「やっぱり自分のリスニング力が足りないんだ…」と落ち込まないでくださいね。それはあなたがオーストラリア人のアクセントに慣れていないせいかもしれませんし、講演者の口調がソフトで淡々としており、普段リスニング教材などで聞き慣れているタイプの英語と比べると、抑揚が少ないせいかもしれません。

深刻な内容を丁寧に伝えながら、話し方に講演者の優しさやユーモアのセンスがにじみ出ていて、好感が持てます。聴衆が聞き入っているタイミングで"Enjoying it so far?"などとジョークを挟めるのも、話者に自分を客観視する余裕がある証拠です。日常的に英語を使う学習者は、いつも明るく楽しい話ばかりをしていられるわけではありませんから、いわゆる“語学の教材”から離れて、こうした話し方に触れておくことも、ときには必要かもしれません。


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ピーター・サウル:死に方を話し合おう

Japanese translation by Kyoko Florendo, reviewed by Emi Kamiya

「死ぬこと自体は変えられないが、『死を占拠』することはできる」というのはピーター・サウル博士の言葉です。終末期医療について希望を明確にすることを勧め、そのきっかけとなる2つの問いかけを提案しています。(TEDxNewy にて収録)

(2013/3/1 字幕公開)

2016/08/17

#3. ジョルジェット・ムルヘア 「孤児院の悲劇」



翻訳ウラ話


私が翻訳に取り組むかどうかを決めるポイントは、「この講演・ビデオの内容を、日本語にして伝えたいと思うかどうか」です。はじめてこの講演を見たとき、日本で保育や幼児教育に携わる友人たちから聞いていた内容と重なる部分が多かったため、「ぜひ日本の視聴者に届けたい」と強く思いました。戦争や政治不安などと無縁でも、生みの親のもとで育てられていても、子どもたちの暮らしが「憂鬱になるほどよく似ている」ということがあり得ると知るのは、とても恐ろしいことですが、目を背けるべきではない現実です。



英語学習のヒント


聞き取りやすい発音、速度、アクセントのイギリス英語なので、リスニングや後について言う練習に使えそうです。アドリブではなく、原稿を用意してきちんと話しているので、かなり書き言葉に近い文や構成になっています。Transcript(参照)を使って、読みこんだり、訳したり、文法的に分解してみたりするのも良いでしょう。また、段落ごとに要約をしたり、段落同士のつながりに着目したりすると、ライティング(文章を書くこと)やディスコース(かたまりごとに文章の展開などを考えること)の面でも役に立ちそうです。

明るく楽しく、夢や希望にあふれ、カラフルでユーモアたっぷり…というのとは違い、テーマが重く、画に変化がないので、大人気になるタイプのTalkではありません。しかし、静かな雰囲気の中に力強さがあり、深刻な問題をわかりやすく伝え、大切なことを鋭く指摘する素晴らしい講演だと思います。KECでは真面目な内容をきちんとした英語で話し、自分の言葉に責任を持ち、自分の考えをより豊かに表現できるようになりたいと望む、成熟した学習者を特に応援しています。


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ジョルジェット・ムルヘア 「孤児院の悲劇」

Japanese translation by Kazunori Akashi, reviewed by Emi Kamiya

孤児院は多大な費用がかかる上、子どもの心と体に取り返しのつかないダメージを与える可能性があります。にもかかわらず、なぜこれほど多く存在するのでしょうか?ジョルジェット・ムルヘアは孤児院での悲劇を語ることを通して、支援が必要な子どもたちを別の方法で救い、孤児院に頼ることをやめるよう強く訴えます。

(2013/2/5 字幕公開)

2016/08/15

#2. エイミー・カディ 「ボディランゲージが人を作る」



翻訳ウラ話


私がTED字幕翻訳チームに入るきっかけとなった講演です。いつどこでこの講演を見たのかは覚えていませんが、当時、私自身がアメリカの大学院で日々感じていたことがそのまま講演者の口から放たれていて、「私だけじゃなかったんだ」と驚くと同時に、「他にも同じような人がいるかもしれない」と考え、ぜひこれを日本語に訳して広く皆さんに伝えたいと思ったのでした。その日のうちに翻訳チームに応募し、加入してさっそくこのタスクを探しましたが見つからず、数日後にレビュータスクが現れたので急いで取った記憶があります。のちに再生回数歴代2位(参照)の大人気になるとも知らず。いま思うと、若気の至り、新人ならではの大胆な行動で恥ずかしいですが、良い思い出です。



英語学習のヒント


発音が明瞭で難解な語は少なく、文もわかりやすいので、学習用の教材に適しています。講演というより、普段づかいの話し言葉に近いので、繰り返し聞いたり、後について言ってみる練習をしてみるのも良いかもしれません。速度は、飛び抜けて早口というわけではありませんが、学習者が真似するにはちょっと厳しいでしょう。TED関連のアプリには再生速度を変えたり、10秒単位で戻したりする機能がついているものもあるようです。活用してください。


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エイミー・カディ 「ボディランゲージが人を作る」

Japanese translation by Yasushi Aoki, reviewed by Emi Kamiya

私たちのするボディランゲージは、自分に対する他の人の見方に影響しますが、自分自身の見方にも影響します。社会心理学者のエイミー・カディは、自信のないときでも自信に溢れる「力のポーズ」を取ることで、脳内のテストステロンやコルチゾールのレベルが変化し、成功できる見込みも変わるのだと言います。

(2012/10/24 字幕公開)

#1. ラリー・スミス 「あなたに夢の仕事ができない理由」



翻訳ウラ話


私が初めて翻訳した作品です。当時は翻訳の仕方も、何がどうなったら字幕が公開されるのかも知らず、とりあえずタスクのリストからビデオを見ておもしろかったので着手しました。わからないなりに、講演者の特徴ある口調を日本語でどう表現するか、日頃使っていない脳の部分が刺激されるような感覚が新鮮で楽しかったのを覚えています。



英語学習のヒント


私は偶然出会ったのですが、いま振り返っても初心者向けの比較的訳しやすいTalkだったと思います。翻訳経験のない方も、試しにTranscriptを使って訳してみてください。「なんとなくわかるけど、日本語にできない」というところがあったら、それは文法や語彙を再確認するチャンスです。

音声的には、特徴のある話し方に加え、語やイディオムなど表現も独特なので、繰り返し聞くと耳に残りやすいかもしれません。ただ、特に英語に不慣れな学習者が真似して話したりすると奇妙なことになりそうです。そうでなくても他人の講演を丸暗記するのはあまりお勧めしませんが、日本人学習者でこの話し方がお手本になる人はとても少ないでしょう。ひとくちに「ネイティブ」と言ってもいろいろです。この講演に関しては一種の話芸として楽しみ、内容に集中し、言語的にはところどころ意味を確認する程度に留めておくくらいで良いと思います。


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ラリー・スミス 「あなたに夢の仕事ができない理由」

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Yasushi Aoki

情熱を追えない人が口にするくだらない言い訳を、ジョークを交えつつ率直な口調で、ラリー・スミスがバッサリ斬ります。

(2012/10/14 字幕公開)

#78. 批判的思考を向上させる5つのコツ — サマンサ・アグース



翻訳ウラ話


ナレーターが台本を読むTED-Ed の翻訳は、一般的なTED Talks より取り組みやすいものですが、ちょっと厄介な特徴の1つに、「訳し上げ」(後ろから前へ訳すこと)が許されない場合が多いというのがあります。訳し上げた方が日本語として自然だと思えるような部分でも、それをすると、字幕の内容がアニメーションに合わなくなってしまうからです。映像とのズレを最小にして、かつ日本語として不自然にならないよう、ところどころ工夫してあります。



英語学習のヒント


英語は比較的やさしく、内容もわかりやすいうえにアニメーションの助けがあるので、とっつきやすいビデオだと思います。まずは字幕なしで全体を理解し、次に英語字幕を見ながらメモをとると良いでしょう。知らない単語は辞書で確認しましょう。ただし、トップの語義をさっと見ただけですぐ納得してはダメですよ。「待てよ、その意味でいいのかな」と“批判的”になるのを忘れないでください。

日本では英語教育を通じて批判的思考を養おうという動きが活発になってきています。具体的にどんな取り組みがなされているか、ご興味のある方はこちらをどうぞ。


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批判的思考を向上させる5つのコツ — サマンサ・アグース

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Naoko Fujii

私たちの日常は決断を迫られる場面にあふれており、常に完璧な選択をすることは不可能です。しかし、良い選択をする確率を上げる方法はたくさんあり、中でも特に効果的なのは批判的思考です。サマンサ・アグースが説明する5段階のプロセスで、問題がいくらでも解決できるようになるかもしれませんよ。

(2016/4/30 字幕公開)

#79. 学び方を学ぶ | バーバラ・オークリー | TEDxOaklandUniversity



翻訳ウラ話


高度な内容を、わかりやすく、穏やかな口調で語る講演者の雰囲気を大切に訳すことを心がけました。軍隊、地理、言語、神経科学、ゲーム、芸術、教育など、話題が多岐にわたるため、訳語の確認をこまめにおこないました。



英語学習のヒント


ゆっくり丁寧に話してくれるので、比較的聞き取りやすいのではないかと思います。ただ、たとえば字幕なしでチャレンジすると、「なんとなくわかるけど、よくわからない」ということになるかもしれません。ガッカリしなくて大丈夫ですよ。英語は平易でも、内容が高度なのですから仕方ありません。日本語で意味を確認してから聞き直すと、よくわかるようになると思います。

英語で研究発表をするなど、ご自分の専門について話す機会がある人にとっては、複雑な内容をわかりやすく説明し、聞き手に伝わる工夫をするためのお手本になりそうですね。


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学び方を学ぶ | バーバラ・オークリー | TEDxOaklandUniversity

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Mai Ohta

工学部の教授バーバラ・オークリーは自らの体験から、数学に苦労する感覚を知っています。彼女は高校の数学や理科では赤点を繰り返し、卒業後すぐに米陸軍に入隊しました。軍隊で昇進するにしろ他のキャリアを探すにしろ、数学の能力やテクノロジーへの理解が欠けているせいで、選択肢が大いに狭められていることに気づいた彼女は、新たな決意を胸に学問の世界へ戻ります。自分がずっと悩まされてきた、まさにその課題を極めるため、自分の脳を鍛え直すことにしたのです。

(2016/5/8 字幕公開)

#80. 文法なんて、どうでもいい? — アンドレア・S・カルード



翻訳ウラ話


私は英文法についてアメリカで学んだため、文法用語のほとんどを英語で知りました。今回、日本語の訳語をひとつひとつ確認し、文法用語を英語で学んだのはラッキーだったなと思いました。日本語の文法用語はピンと来ないものが多いと感じたからです。たとえば、話し手・書き手の気持ちや態度を指す"mood"は、日本語では「法」と呼ぶようなのですが、少なくとも私にはわかりにくいと思われました。字幕では「ムード」を使っています。



英語学習のヒント


英語を学習する人のうち、文法が苦手な人や、「なんで文法やるの?」という疑問を持つ人にぜひ見ていただきたい内容です。英語もやさしくわかりやすいので、英語字幕を使って聞き取りの練習をしてもいいかもしれません。

KECでは、受講のプロセスとして真っ先に会話をしていただき、そこから文法を含む様々な課題を発見し、その課題に基づいて学習計画を立てていきます。文法というと書き言葉のイメージが強いかもしれませんが、ビデオで説明されているとおり、書き言葉・話し言葉のどちらであろうと、文法は決して「どうでもいい」ものではありません。

会話と文法についてご興味のある方はこちらの記事もどうぞ。


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文法なんて、どうでもいい? — アンドレア・S・カルード

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Riaki Poništ

書き言葉の基準となる文法的なルールのすべてを、話す時にも覚えておくのは大変ですよね。「犬と私」と言う場合、どんな時は「the dog and me」が正しく、どんな時は「the dog and I」とすべきなのでしょう? 実際のところ、どうでもいいのではないのでしょうか? 言語学において、規範主義と記述主義の文法観は大きく異なります。両者の間で長年交わされてきた議論に、アンドレア・S・カルードが飛び込みます。

(2016/5/8 字幕公開)

2016/08/05

#85. ブライアン・リトル: 自分はいったい何者なのか―性格の謎を解き明かす & #86. ある情熱的な内向型人間の告白




翻訳ウラ話


2014年TEDxと2016年TEDでの講演。よく似た内容だったので、同じペアで2本を行き来して翻訳しました。訳として統一すべきところはしながら、それぞれに翻訳者の個性を残してもいるので、2つの翻訳を見比べるとおもしろい発見があるかもしれません。


英語学習のヒント


英語学習の教材には向かないTalkです。字幕なしで聞き取れる上級者でも、内容をすべて理解するのは厳しいでしょう。英語字幕を見てもあまり助けになりません。誰にでもわかる話し方を選んでいないのには理由があり、それ自体が講演内容の伏線になっていると考えられます。もちろん、講演者本人の立場や聴衆への敬意の表れでもあります。

この講演を知ったのは、あるオンライン教育の研究者との議論がきっかけでした。オンライン教育を含む昨今の”ソーシャル”な教育が前提としているかもしれない、extrovertな学習者・教育者像に対する懸念を共有しました。これは日本の英語教育において時々気になる点でもあります。特に英語の会話指導では、まるで上達のためにはextrovertになるのが必須のような雰囲気があり、一部には「英語を話す際には”演じる”のが当然」と思われている節もあります。ブライアン・リトルの言う「コア・プロジェクト」の考えに賛同しつつ、KECでは学習者が自分らしさを失うことなく言語を使い、本来の自分をよりよく表現するという方向で言語学習を進めていってもらいたいと考えています。

”ソーシャル”な教育と外向性・内向性について興味のある方はこちらの記事もどうぞ。


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ブライアン・リトル: 自分はいったい何者なのか―性格の謎を解き明かす (2016)

Japanese translation by Riaki Poništ, reviewed by Emi Kamiya

自分を自分たらしめるものとは何か。心理学者はなにかと、人の特性や、その人を特徴づける性質を定義したものを持ち出します。しかしブライアン・リトルが注目するのは、文化として求められる場合や、自らそうせざるを得ない場合も含め、人がこういった特性を超えて振る舞うケースです。このトークでは、リトル博士が内向型人間と外向型人間の違いに切り込み、人の性格は自分で思っているよりも変幻自在なものであると言えるのはなぜかを解説します。
(2016/8/5 字幕公開)


ある情熱的な内向型人間の告白 | ブライアン・リトル | TEDxOxbridge (2014)

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Riaki Poništ

ブライアン・リトルが面白おかしく語る、この楽しいトークでは、私たちの日常に登場する内向型人間と外向型人間に目を向けます。なぜ人は柄にもないキャラを演じることがあるのか、それに対して何ができるのか、考えさせられるでしょう。
(2016/8/5 字幕公開)