2016/11/25

#95. ウィット(知力)とグリット(やり抜く力)を超えて:成功の秘訣を再考する | ハワード・ガードナー | TEDxBeaconStreet




翻訳ウラ話


アメリカで教育を学んだ人なら一度は通るガードナーのMI理論。ガードナー自身が自らの言葉で語る動画はネット上にいくつもある中(参照)、その1つに日本語字幕を付けることができるというのは貴重で光栄な機会でした。この翻訳作業のために資料を探す過程で気づいたのですが、MI理論は日本語の資料だけを見ていると支持が圧倒的多数、疑問の余地なしという印象です。欧米では批判もたくさんあり、教育や脳科学などの分野でさまざまな議論を呼んでいますが、もしその部分が日本の人々に届いていないのだとすると重大な問題だなと思いました。脅すつもりはありませんが、「英語ができると取り込める情報の量が増え、理解の幅が広がる」というのは事実です。

日本語の訳本をはじめ、MI理論関連には定訳のある用語が多いので、検索で複数のソースを確認しながら翻訳を進めました。



英語学習のヒント


理論に馴染みがない人にとっては内容がわかりにくいかもしれません。「自分の英語はまだまだだ…」なんて落ち込んだりしないでくださいね。英語学習に向いているビデオは他にいくらでもあります。

歯ごたえのある学習を望む人は、大学で講義を受けるつもりで、字幕をオフにしてメモをとりながら聞いてみましょう。聞き取りという点では、前半の理論の概要は比較的やさしいですが、後半の新しい活動の説明に入ると難度が上がります。集中力を保ち、なるべく止めたり戻したりしないで要点を書き取りましょう。終わったら自分のメモを元に講演を再構築し、最後に英語字幕や日本語字幕で内容を確認します。


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ウィット(知力)とグリット(やり抜く力)を超えて:成功の秘訣を再考する | ハワード・ガードナー | TEDxBeaconStreet

Japanese translation by Eriko T., reviewed by Emi Kamiya

長い目で見たときに真に成功する為には何が必要なのでしょうか?もしあなたの考える答えが「頭が良いこと」と「努力をすること」なら、この講演を聴いてみてください。

(2016/11/25 字幕公開)

2016/11/10

#38. カルマパ猊下: 心のテクノロジー



翻訳ウラ話


こちらも様々な事情から長い間字幕が未完成になっていたものでした。チベット語を英語に通訳したものに日本語字幕をつけるという珍しい体験ができました。



英語学習のヒント


英語の部分は通訳者が一語一語を訳しながら発しているものですので、速度はゆっくりで間もたっぷり、文としても複雑ではありません。宗教家の言葉ということもあり、語や文の構成もシンプルでわかりやすいでしょう。とはいえ、あくまでも内容を伝えるための英語ですので、あえてこれを英語学習に使うことはないでしょう。通訳の言葉は話し言葉とも書き言葉とも違う特殊なものですが、ひょっとしたら日本の教科書に出てくるような“英語”にはこれと近いところがあるかもしれませんね。

講演者には「His Holiness」という敬称が付いており、「猊下」と訳しています。このような敬称の中で日本人にとって身近なのは「His/Her Majesty」でしょうか。その他にも英語の敬称はいろいろありますので、興味がある人はこちらなどで確認してください。


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カルマパ猊下: 心のテクノロジー

Japanese translation by Mariko Imada, reviewed by Emi Kamiya

カルマパ猊下がどのようにして見出され、チベット仏教で尊敬される人物になったかを話します。猊下はテクノロジーとデザインだけではなく、私たちの心のテクノロジーとデザインにも取り組むよう求めています。通訳はタイラー・デュワーです。

(2014/8/12 字幕公開)

2016/11/09

#94. 義務でする交流なんて要らない | キャロライン・ マグロー | TEDxBirminghamSalon



翻訳ウラ話


コーチングセッションの中で「忙しくて学習時間が取れない」「どこから手を付ければいいかわからない」というようなご相談を紐解いていくと、それぞれの「線引き」や「優先順位」の問題につながってくることがあります。限られた時間やエネルギーを、どこにどれだけ使うかは本人次第なのですが、それに気づくのは簡単ではないのかもしれません。こうした講演が、日常生活のちょっとした習慣を変えていくきっかけになればいいなと思います。



英語学習のヒント


この講演で出てくる「owe」や「miss」は、英語としては基本的な部類で非常によく使われる動詞ですが、日本語に訳そうとすると意味がとりにくいものです。そのためか、日本人学習者が発する英語の中ではあまり見かけません。読む・聞くというreceptiveな場面では「なんとなくわかるけど、よくわからない」、書く・話すというproductiveな場面では「使えない」「使うのに勇気が要る」となっているのかもしれませんね。「owe」「miss」の他に、英語では頻出でも日本人にとって使いにくい動詞としてパッと思いつくのは「deserve」「matter」「afford」などでしょうか。

このような動詞をきちんと理解するには、日本語訳と英語の両面から、できるだけ多くの例文に当たることが大切です。まずは辞書を引くことですが、最初に出てきた意味をチラッと見ただけでわかったつもりになってしまうと、このタイプの語は習得できません。語義、例文を丁寧に読み、その語が持つ“守備範囲”をつかみましょう。次に、ターゲットの語が使われている前後の文脈を探します。ネット検索が便利ですが、ターゲットの語単体で探してもうまく行きませんし、「+sentence」のようなキーワードでは文レベルの例しか見つかりません。そこで、辞書で得た情報から、一緒に使われている可能性の高い語を見繕ってキーワードにします。たとえば「owe」なら「+responsibility」「+relation」「+favor」などと合わせて探す、という具合です。どんな語と組み合わせるとよいか考えることで、言語センスも磨かれていきます。


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義務でする交流なんて要らない | キャロライン・ マグロー | TEDxBirminghamSalon

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Riaki Poništ

この短い講演では、ライターのキャロライン・ マグローが、自身が執筆し、大きな反響を得て広まったブログ記事にまつわる問題を語ります。過度に他人とつながりやすい現代社会で、自らのエネルギーを使い果たすことなく、なおも他者に与える方法について、マグローのアイデアを聞いてみましょう。

(2016/11/8 字幕公開)

2016/11/06

#37. 幸福は心の中に|ゲン・ケルサン・ニエマ|TED×Greenville



翻訳ウラ話


15年ほど前、私は日本からアメリカへ禅を紹介しに来られた老師に教わってはじめて坐禅を知りました。その後、日本帰国中に近所のお寺で何度か体験し、そこで教わったことやいただいたハンドブックを使って、今でも気が向いたときに坐るようにしています。一方、アメリカでは西海岸のビジネス界からMeditation(瞑想)が広まって、東海岸でもすっかり定着しましたが、意外なことにそちらは未体験なのです。というわけで、どんなものか覗くついでに訳してみたのがこの作品です。



英語学習のヒント


これもまた、英語学習にと考えること自体にやや抵抗がありますが、あえて考えるなら、非常にゆっくり、はっきり、わかりやすく話していますので学習に使いやすいと言えるかもしれません。中級程度でも日本語オフ、字幕オフで理解できる内容です。気に入った文があったら、英語字幕を見ながら音声のあとについて言い、映像を止めて滑らかに言えるまで繰り返し言う、というようにしておくと、ふとしたときに口をついて出てくるようになります。発音を改善したい人やスピーキングを伸ばしたい人は、いわゆるシャドウイングのようにつぶやくのではなく、唇の形や舌の位置を意識しながらしっかり声に出すようにしましょう。録音をして、自分で聞いてみるのも効果的です。


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幸福は心の中に|ゲン・ケルサン・ニエマ|TED×Greenville

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Shoko Takaki

仏教の尼僧、ゲン・ケルサン・ニエマは「幸福という贈り物は私たちの心の中にこそある」と言います。自分の幸福を他人や周囲の状況に任せてはいけません。幸福になりたいのなら「幸福を他人に委ねるのは止め」、心の中から湧き上がる平穏な気持ちを育んでいかなければならないのです。

(2014/8/11 字幕公開)

#36. ナオミ・オレスケス: 科学者を信頼すべき理由



翻訳ウラ話


本来は科学の外にいる人向けに、科学が行っていることを解説する目的のレクチャーなのですが、立場上、いつの間にか「なぜ科学をやるのか」という聞き方をしていることに気づきました。研究者はときに自分がやっていることが何の役に立つのか、見失うものです。つい、PhD学生の間でよく知られるこちらの図解を思い出してしまいました。

訳については判断に迷うような部分はありませんでしたが、固有名詞や訳語、定訳の確認に手間がかかりました。これに限らず、分野を越えていつも思うことですが、同じモノや現象を指す用語でも、英語では一般的な語の組み合わせなどで比較的素人の想像が届きやすいのに対し、日本語では日常語と明確に隔てられていて、孤高で有標、使われ方が限定的ですね。たとえば「inductive/deductive」にしても、「帰納/演繹」よりずっと身近です。「専門用語然」としているところに、日本語の専門用語のありがたみがあるんでしょうか。



英語学習のヒント


英語そのものは複雑ではなく、口調など音声的にも学習に向かないわけではありませんが、とにかく専門用語や固有名詞が多い中で話題が次々に移っていくので、英語学習という面ではなにもこれを使わなくてもいいかな、というところです。日本語字幕をオンにして、全体の意味をつかんだうえで、気になる箇所があればそこに戻って、英語字幕やトランスクリプトでチェックする程度に留めておきましょう。スピーチのスタイルとしては、話の展開や例の出し方が上手いので、たとえばガイドや広報のように、なんらかの事柄について広く浅く説明する予定がある人にとっては参考になるかもしれません。


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ナオミ・オレスケス: 科学者を信頼すべき理由

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Misaki Sato

世界の重大な問題の多くは科学者の見解を必要としますが、なぜ私たちは科学者の言うことを信じるべきなのでしょうか。科学史の研究者であるナオミ・オレスケスは、私たちと信じることとの関係を深く考察し、科学研究に対する姿勢にまつわる3つの問題点を導き出します。さらに、私たちが科学を信頼すべき理由として、独自の根拠を示してくれます。

(2014/8/11 字幕公開)

2016/11/05

#93. アビゲイル・マーシュ: 人が利他的になる理由



翻訳ウラ話


個人的に日頃から読んだり話したりしている話題と重なるところが多く、点と点がつながるような感覚があったので翻訳に着手しました。今回は“ご本人吹き替え現象”は起きませんでしたが、内容がすとんと理解でき、外部資料を探す必要もなかったため、短時間であっという間に訳し終えました。



英語学習のヒント


確認したわけではありませんが、講演者は周りに非ネイティブが少ない環境にいるネイティブスピーカーだろうな、という印象を受けました。その意味では、日本であまり出会わないタイプの英語で、聞き慣れないために聞き取りにくいと感じる学習者もいるかもしれません。自分のリスニング力を責める必要はありませんよ。また、句や節が挿入された長めの文が多く、学習段階によってはかえって混乱することになりかねませんので、文法的な分析や読み込みはお勧めしません。一方、余裕のある学習者はそれを逆手にとって、英語トランスクリプトを使うなどして、「ネイティブらしさ」がどこにあるのか考えながら音声と文字情報を追ってみてください。

TED.comのページには視聴者からたくさんのコメントが寄せられており、この講演が多くの人にさまざまなことを考えさせるきっかけになっていることがわかります。ページの下の方までスクロールし、「Discuss」の中から特に返信が付いて議論になっているものを選び、それぞれの投稿者の立場や考え方の違いを読み取ってみましょう。賛成・反対を示す際の切り出し方をバリエーション豊かに知っておくと、実際に議論する場合に便利ですから、こうしたところから盗んでストックしておくといいですよ。また、議論に参加したつもりで自分の意見を書き、英語がわかる人にチェックしてもらうのも良い練習になります。


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アビゲイル・マーシュ: 人が利他的になる理由

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by nobuyuki umeji

自らの身を削ってでも他人を助けようとするなど、無私の行動をとれる人がいるのはなぜでしょう。心理学を研究するアビゲイル・マーシュは、赤の他人に腎臓を提供するドナーなど、極めて利他的な行為をする人々の動機を探っています。彼らは脳が違うんでしょうか?

(2016/11/4 字幕公開)

2016/11/03

#35. 代名詞の秘密 | ジェームズ・ペネベイカー | TEDxAustin



翻訳ウラ話


英語学習者に関わる研究や仕事をしている私にとって、英語の文法、言葉づかい、やりとりの様子などはどれも非常に身近な話題ですが、代名詞の使用頻度から心理や人間関係を解くという視点はとても新鮮で、翻訳を通じて理解を深めたいと思いました。英→日の翻訳では、通常、代名詞は訳出しない方が文として自然になりますし、字幕では文字数に制限があるので省くことが多いのですが、代名詞が主役のこの作品ではそうはいきません。あえて代名詞を逐一訳出しながらも、日本語として意味が通り、かつ読みやすく収まるように工夫しました。



英語学習のヒント


少し早口で聞き取りにくいと感じるかもしれませんが、英語そのものは決して難解ではありません。英語字幕をオンにして、必要なら速度を落とすなどして確認してみてください。日常会話で役に立ちそうな、よく使われる語が多いですから、気になった語を拾って自分のものにしていきましょう。特に、感情や様子を表す形容詞は覚えておくと便利ですよ。

講演の中で説明されている代名詞の特徴は、あなたの書いたメールにも当てはまるでしょうか。講演のもとになっている研究は母語話者を調べていますので、学習者の書く英語に同じ現象があらわれるとは限りません。特に日本人学習者の場合、日本語の影響から代名詞を使う頻度が全体的に低い可能性があります。また、代名詞を使っている場合でも1人称(I, my, me, mine)に偏っている傾向があるかもしれません。さらに、あなたのところに届いた英語母語話者からのメールはどうでしょう。代名詞に着目して頻度や使い方を調べ、気づいたことを書き出してみてください。それから再度自分の書いた英語に戻り、内容を変えないで別の表現ができそうなものがあれば書き直します。書きっぱなしではなく、自分の書きたいことが表現できているか、英語のわかる人にチェックしてもらうようにしましょう。


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代名詞の秘密 | ジェームズ・ペネベイカー | TEDxAustin

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Shoko Takaki

I, You, Me, We, Us などの簡単な語には私たちの人となりや感情を浮き彫りにできるとてつもない力があります。米国最大規模の大学で心理学科長を務めるジェームズ・ペネベイカーは私たちの言葉遣いを詳しく調べ、それがいかに私たちの自己理解や他者とのやりとり、根底にある強さや活力が湧く気持ちを反映し、それらを作り変えるかについて深く掘り下げます。

(2014/8/11 字幕公開)

2016/11/02

#34. アンドリュー・ソロモン: 揺るぎなき愛



翻訳ウラ話


いろんな事情が重なって、長いあいだ日本語字幕が完成しないままになっていた作品です。“平均”より時間的に長めで難度も高く、確かに翻訳しやすいタイプのものではありませんが、一方で、訳がなければ日本の視聴者には伝わりにくい講演でもあるので、重い腰を上げてタスクを引き受けることにしました。翻訳が終わり字幕が公開されたときには「やっとお届けできる」とホッとしました。



英語学習のヒント


学習用として考えるなら、たとえば句動詞を拾って、意味と使われ方を確認してみてはどうでしょうか。句動詞とは、動詞と副詞や前置詞がセットになった慣用的な表現です。この講演の中では"come out"、"take aback"、"pass down"など、たくさん使われています。

でも実は、この講演を「英語の学習」に使うのは無粋というか、もったいないような気がします。上級者でないと実行しにくいですが、作家である講演者が紡ぎ出す、豊かで繊細な言葉の芸術をじっくり鑑賞する、というのがふさわしいと思います。日本語字幕をオンにして内容をつかんでから、英語のインタラクティブ・トランスクリプトを使い、少しずつ区切って音声を聞きながら、ゆっくり読み進めるようにしてください。知らない語は辞書を引いたり、トランスクリプトを日本語に切り替えたりして確認しましょう。「さすが」と思える表現がきっと見つかるはずです。


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アンドリュー・ソロモン: 揺るぎなき愛

Japanese translation by Seiryu Matsuura, reviewed by Emi Kamiya

自分と根本的に異質な子供(例えば天才児、あるいは特異な才能を持った子供や犯罪に手を染めた子供など)を育てるというのは、どのようなことなのでしょうか?この静かに進行するトークの中で、作家のアンドリュー・ソロモンは何十組もの親たちとの対話を通して学んだことを語ります。無条件の愛と無条件の受容とは何が異なるのでしょうか?

(2014/8/11 字幕公開)