2016/11/05

#93. アビゲイル・マーシュ: 人が利他的になる理由



翻訳ウラ話


個人的に日頃から読んだり話したりしている話題と重なるところが多く、点と点がつながるような感覚があったので翻訳に着手しました。今回は“ご本人吹き替え現象”は起きませんでしたが、内容がすとんと理解でき、外部資料を探す必要もなかったため、短時間であっという間に訳し終えました。



英語学習のヒント


確認したわけではありませんが、講演者は周りに非ネイティブが少ない環境にいるネイティブスピーカーだろうな、という印象を受けました。その意味では、日本であまり出会わないタイプの英語で、聞き慣れないために聞き取りにくいと感じる学習者もいるかもしれません。自分のリスニング力を責める必要はありませんよ。また、句や節が挿入された長めの文が多く、学習段階によってはかえって混乱することになりかねませんので、文法的な分析や読み込みはお勧めしません。一方、余裕のある学習者はそれを逆手にとって、英語トランスクリプトを使うなどして、「ネイティブらしさ」がどこにあるのか考えながら音声と文字情報を追ってみてください。

TED.comのページには視聴者からたくさんのコメントが寄せられており、この講演が多くの人にさまざまなことを考えさせるきっかけになっていることがわかります。ページの下の方までスクロールし、「Discuss」の中から特に返信が付いて議論になっているものを選び、それぞれの投稿者の立場や考え方の違いを読み取ってみましょう。賛成・反対を示す際の切り出し方をバリエーション豊かに知っておくと、実際に議論する場合に便利ですから、こうしたところから盗んでストックしておくといいですよ。また、議論に参加したつもりで自分の意見を書き、英語がわかる人にチェックしてもらうのも良い練習になります。


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アビゲイル・マーシュ: 人が利他的になる理由

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by nobuyuki umeji

自らの身を削ってでも他人を助けようとするなど、無私の行動をとれる人がいるのはなぜでしょう。心理学を研究するアビゲイル・マーシュは、赤の他人に腎臓を提供するドナーなど、極めて利他的な行為をする人々の動機を探っています。彼らは脳が違うんでしょうか?

(2016/11/4 字幕公開)

2016/11/03

#35. 代名詞の秘密 | ジェームズ・ペネベイカー | TEDxAustin



翻訳ウラ話


英語学習者に関わる研究や仕事をしている私にとって、英語の文法、言葉づかい、やりとりの様子などはどれも非常に身近な話題ですが、代名詞の使用頻度から心理や人間関係を解くという視点はとても新鮮で、翻訳を通じて理解を深めたいと思いました。英→日の翻訳では、通常、代名詞は訳出しない方が文として自然になりますし、字幕では文字数に制限があるので省くことが多いのですが、代名詞が主役のこの作品ではそうはいきません。あえて代名詞を逐一訳出しながらも、日本語として意味が通り、かつ読みやすく収まるように工夫しました。



英語学習のヒント


少し早口で聞き取りにくいと感じるかもしれませんが、英語そのものは決して難解ではありません。英語字幕をオンにして、必要なら速度を落とすなどして確認してみてください。日常会話で役に立ちそうな、よく使われる語が多いですから、気になった語を拾って自分のものにしていきましょう。特に、感情や様子を表す形容詞は覚えておくと便利ですよ。

講演の中で説明されている代名詞の特徴は、あなたの書いたメールにも当てはまるでしょうか。講演のもとになっている研究は母語話者を調べていますので、学習者の書く英語に同じ現象があらわれるとは限りません。特に日本人学習者の場合、日本語の影響から代名詞を使う頻度が全体的に低い可能性があります。また、代名詞を使っている場合でも1人称(I, my, me, mine)に偏っている傾向があるかもしれません。さらに、あなたのところに届いた英語母語話者からのメールはどうでしょう。代名詞に着目して頻度や使い方を調べ、気づいたことを書き出してみてください。それから再度自分の書いた英語に戻り、内容を変えないで別の表現ができそうなものがあれば書き直します。書きっぱなしではなく、自分の書きたいことが表現できているか、英語のわかる人にチェックしてもらうようにしましょう。


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代名詞の秘密 | ジェームズ・ペネベイカー | TEDxAustin

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Shoko Takaki

I, You, Me, We, Us などの簡単な語には私たちの人となりや感情を浮き彫りにできるとてつもない力があります。米国最大規模の大学で心理学科長を務めるジェームズ・ペネベイカーは私たちの言葉遣いを詳しく調べ、それがいかに私たちの自己理解や他者とのやりとり、根底にある強さや活力が湧く気持ちを反映し、それらを作り変えるかについて深く掘り下げます。

(2014/8/11 字幕公開)

2016/11/02

#34. アンドリュー・ソロモン: 揺るぎなき愛



翻訳ウラ話


いろんな事情が重なって、長いあいだ日本語字幕が完成しないままになっていた作品です。“平均”より時間的に長めで難度も高く、確かに翻訳しやすいタイプのものではありませんが、一方で、訳がなければ日本の視聴者には伝わりにくい講演でもあるので、重い腰を上げてタスクを引き受けることにしました。翻訳が終わり字幕が公開されたときには「やっとお届けできる」とホッとしました。



英語学習のヒント


学習用として考えるなら、たとえば句動詞を拾って、意味と使われ方を確認してみてはどうでしょうか。句動詞とは、動詞と副詞や前置詞がセットになった慣用的な表現です。この講演の中では"come out"、"take aback"、"pass down"など、たくさん使われています。

でも実は、この講演を「英語の学習」に使うのは無粋というか、もったいないような気がします。上級者でないと実行しにくいですが、作家である講演者が紡ぎ出す、豊かで繊細な言葉の芸術をじっくり鑑賞する、というのがふさわしいと思います。日本語字幕をオンにして内容をつかんでから、英語のインタラクティブ・トランスクリプトを使い、少しずつ区切って音声を聞きながら、ゆっくり読み進めるようにしてください。知らない語は辞書を引いたり、トランスクリプトを日本語に切り替えたりして確認しましょう。「さすが」と思える表現がきっと見つかるはずです。


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アンドリュー・ソロモン: 揺るぎなき愛

Japanese translation by Seiryu Matsuura, reviewed by Emi Kamiya

自分と根本的に異質な子供(例えば天才児、あるいは特異な才能を持った子供や犯罪に手を染めた子供など)を育てるというのは、どのようなことなのでしょうか?この静かに進行するトークの中で、作家のアンドリュー・ソロモンは何十組もの親たちとの対話を通して学んだことを語ります。無条件の愛と無条件の受容とは何が異なるのでしょうか?

(2014/8/11 字幕公開)

2016/10/14

#33. ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ: 富を贈ることが最高の喜び



翻訳ウラ話


あまり積極的に手を出すタイプの作品ではありませんが、某テレビ番組のために急いで字幕を公開する必要があるとのことでお手伝いしました。自分の興味や好みで作品を選んでいるとどうしても食わず嫌いになってしまいがちですが、翻訳チームの一員として貢献するという視点があると、個人的な理由では出会うことのないTalkと関わりを持つことができます。訳にあたり関連記事やゲイツ夫妻の他の講演を聞く機会も得られ、良い勉強になりました。



英語学習のヒント


TEDの中にたまにあるインタビュー形式です。講演と話し方が異なるのは当然ですが、オーディエンスを意識したやりとりという意味で普通の会話とも違います。どこがどのように違うか考えながら聞いてみましょう。また、3人の話し方の違いにも注目してみましょう。

台本のない会話なので、文が途切れたり、言い直したりしているところがありますし、内容も少しわかりにくい部分がありますので、英語の学習には向かないだろうと思います。語彙は専門用語を含め、ところどころに聞き慣れない語が見つかるでしょう。普段触れている英語によっては「普通の会話にしては堅苦しい」と感じる学習者もいるかもしれません。確かに公の場でのインタビューなのでヨソイキなところがまったくないとは言えませんが、知的レベルの高い大人同士の日常会話としては決して特別なタイプのものではありません。会食やパーティーなど、ざっくばらんな雰囲気の中でも洗練された英語を使う必要のある学習者にはとっては、参考になるところがあるでしょう。

11:45あたりから、自然な会話らしいおもしろさが生じています。字幕では字数制限の都合もあり、残念ながら補足ができていませんので、それを逆手に取って、行間を読む練習問題にしてしまいましょう。ビルが何を言っているのか、メリンダがそれをどう解釈し、どういう食い違いが起きているか、考えてみてください。こういうアクシデントから話者の人物像が見えてくるようになると、言語学習はグッとリアルで深みのあるものになってきます。


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ビル・ゲイツとメリンダ・ゲイツ: 富を贈ることが最高の喜び

Japanese translation by Mari Arimitsu, reviewed by Emi Kamiya

1993年、婚約中のビルとメリンダ・ゲイツはザンジバルの海岸を歩きながら、マイクロソフト社から得た富を社会に確実に還元する方法について大胆な決断をしました。クリス・アンダーソンを交えたトークで、ゲイツ夫妻が自身のビル&メリンダ・ゲイツ財団にまつわる活動、結婚生活、子供たち、失敗について、そして富のほとんどを贈ることにどれほど満足しているかを語ります。

(2014/8/2 字幕公開)

2016/10/10

#92. ジュリー・リスコット=ヘイムス: 我が子を成功させる、やりすぎない子育て



翻訳ウラ話


聴衆の心をわしづかみにするパワフルな講演です。翻訳が終わった後で、講演者には弁護士の経験と詩の心得があることを知り(参照)、大いに納得しました。歯切れの良さ、テンポの良さ、喩えのわかりやすさ、言葉選びのセンス、盛り上げ方は見事ですね。

子育てや大学受験など、話題に馴染みがあるせいか、私の耳には、講演者の声や口調で日本語が聞こえてくるという“ご本人吹き替え現象”が起きていました。というわけで、訳すというより、聞こえるままに書き取るという感覚で、あっという間に字幕が出来上がりました。



英語学習のヒント


発音が明瞭で、話題も身近なものなので、学習に使いやすいと思います。音声面では、韻を踏んでいる部分など、英語のリズムや美しさを味わってください。口調やスピーチのスタイルという面では、学習者が真似するにはハードルが高いのと、重ね塗りするような技は言い回しとしてくどくなってしまう恐れがあるので注意してください。

語彙はところどころに見慣れない語やイディオムがあるのではないでしょうか。前後に似たような表現があるのでそれに助けられ、だいたいわかる場合が多いかもしれませんが、英語学習を目的とする人は、そういう語ほどあえてきちんと辞書を引いて意味を確かめるようにしましょう。2:22あたりで出てくる「コンシェルジュ」などの語は、日本語で通用しているぶん、かえって英語の発音が定着しにくいかもしれません。咄嗟に言われたり、言ったりする場面で対応できるよう、講演者のあとについて発音するなどして練習しておくといいですよ。

ま、"concierge"はアメリカ人にとっても外来語なので難しいんですけどね(参照)。


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ジュリー・リスコット=ヘイムス: 我が子を成功させる、やりすぎない子育て

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Saeko Hashimoto

過度な期待をかけまくり、子どものやることなすことを細かく管理する親は、子どもの助けになっていません。少なくともジュリー・リスコット=ヘイムスにはそう見えています。かつてスタンフォード大学で新入生担当学生部長を務めた彼女が、情熱とひねりの利いたユーモアをこめて主張します。親は子どもの成功を成績やテストの点数で決めるのをやめ、昔ながらの考えに立ち返って「無償の愛」を与えることに集中すべきなのです。

(2016/10/9 字幕公開)

2016/10/08

#32. ルース・チャン: 難しい選択の仕方



翻訳ウラ話


英語学習の方法を中心に、日々さまざまなご相談を受ける中で、「選択する」ということを避ける動きをよく見かけます。変わりたいけれど変われない、何か思いついても最初の一歩が踏み出せない人には、自分で選択をする代わりに、お金がない、時間がない…などの外的な理由を並べて、「だからできない」という結論で落ち着こうとする傾向があります。でも実は「選択しない」というのも選択のうちなんですよね。コーチの仕事は、選択の難しさや選択する辛さに共感しながら、「難しくて辛いけど、逃げないで選択しよう」という気持ちになれるよう、後押しすることなのかもしれません。日本語字幕によってより多くの人にこの講演を見ていただけるといいなと思って訳しました。



英語学習のヒント


発音は明瞭、スピードはゆっくり、文は短くてシンプルなので、学習用としていろいろな使い道があると思います。語彙もやさしく、絵やジェスチャーの助けもあるので、字幕オフで、メモを取りながら視聴してみてください。メモは英語でも日本語でも、記号や図でも構いません。仮説を立てては論破する、というのが繰り返されていますので、その1つ1つについて、「仮説」と「ダメな理由」をなるべく詳しく書き取ります。追いつけなくなったら多少戻したり止めたりしても良いですが、できるだけ止めずに進みましょう。見終わったらメモをもとに講演内容を再構築し、英語で書き出します。書き終わったらトランスクリプトと見比べて、文法や表現を含めて自分で添削してみましょう。


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ルース・チャン: 難しい選択の仕方

Japanese translation by Emi Kamiya, reviewed by Tadashi Koyama

このトークであなたの人生は本当に変わるかもしれません。どちらの職業を選ぼうか?別れるべきか、結婚するべきか?どこに住もう?こうした重要な決断は難しく、なかなか決められないものです。しかしそれは考え方が間違っているからなのだと、哲学者のルース・チャンは言います。彼女が提案するのは、本当の自分を確立するための、説得力のある新たな枠組みです。

(2014/7/30 字幕公開)